2013年8月29日木曜日

ダビガトランの適応

心房細動を持っていると、正常の脈拍の人に比べて、脳梗塞の発症率は2~7倍に上昇します。それ予防するために、このブログでも以前書いたワルファリンという薬を内服すると、脳梗塞の発症率を60%減らすことができます。

最近、次々にワルファリンに代わる抗血栓薬が開発されています。中でもダビガトランという薬は、ワルファリンと比較した臨床試験の結果では、ワルファリンよりも脳梗塞の発症率を下げることができて、尚且つ、出血等の副作用も減らすことができたのです。また、ワルファリン内服の際には、納豆を食べれないなどの食事制限がありましたが、ダビガトランにはそれがない。

しかし、良いことばかりではありません。ダビガトランは値段が高いのです。ワルファリンは1㎎で9.6円ですので、一日当たり3㎎内服するとして、28.8円/日です。しかし、ダビガトランは75㎎が132.6円、110㎎が232.7円ですので、一日220㎎~300㎎内服する場合、465.4~530.4円/日かかるのです。実にコストはワルファリンの16~18倍。

心房細動患者さんの、ワルファリンやダビガトランの内服適応基準は、患者さんが幾つの脳梗塞発症リスクを持ち合わているかによって決まります。ダビガトランは、出血の副作用も少ないので、脳梗塞発症の可能性が低い若年者でも、内服したほうが得なことがあります。ワルファリンではそのような患者さんでは、副作用を考慮すると、内服の適応はありませんでした。例えば50歳の高血圧を持ち合わせた心房細動患者さん。ワルファリンの場合は、内服は勧められませんでしたが、ダビガトランの場合は、適応ありとなりました。
商品名をプラザキサといいます

2013年8月28日水曜日

手の感覚

不整脈の原因となっている心筋を焼灼するには、カテーテルの先端を心筋に押し当て、高周波の電気を流さなければなりません。この時の、カテーテルの押し当て具合で、心筋の焼き具合が変わってきます。当て方が弱いと、上手く焼けず、不整脈は治らない。当てすぎると、心筋が焼けすぎ、もしくは、心筋に穴が開いて、合併症を引き起こします。この力加減は術者次第です。そのために、上手な術者とそうでない術者が存在することになります。勿論、経験数により、この力加減の駆け引きは上手くなっていきます。

最近、コンタクトフォースアブレーションカテーテルというのが、発売されました。カテーテル先端に圧センサーが付いていて、今、どのくらいの力で、心筋に接触しているかというのが、分かる様になったのです。このカテーテルを使用すると、当たり加減が、術者の手の感覚ではなく、数字でコンピューター上に表示されます。

しかし、カテーテル先端に色々なセンサーを詰め込み過ぎたため、まだカテーテルの操作性が十分に洗練されておらず、スムーズな動きを示すというところまでは、行っていません。最初、私も珍しがって、使用しましたが、結果的に手技時間が延長してしまい、先に述べた、名刀「正宗」に戻ってしまいます。

しかし、技術は徐々に改善され、このカテーテルの操作性もその内改善されていくものと思われます。

カテーテルの先端が曲がっているのが、分かると思います。この部位で先端の圧を感じています。

2013年8月27日火曜日

カテーテルアブレーションは痛いか?

カテーテルアブレーションとは、カテーテル先端電極を心筋に接触させ、そこから高周波の電気を流し、不整脈の原因となっている心筋を焼灼する治療方法です。焼灼する心筋内膜には、痛みを自覚する神経は分布していませんが、焼灼によって生じた熱が、心外膜に到達し、鋭い痛みを自覚します。そのため、アブレーション中は痛みを消失させるような、静脈麻酔を使用しています。しかし、完全に痛みをとるために、静脈麻酔を十分投与すると、呼吸が止まってしまうという弊害が起きてしまう人もいるのです。そういう人では、麻酔の量をを少なくせざるを得ません。しかし、その場合は痛みも完全にとることができず、患者さんには多少の痛みは我慢していただいていました。

痛みを完全にとるためには、全身麻酔という方法が最も確実です。しかし、昨今、麻酔科医が不足し、カテーテルアブレーションに人員を割くだけの余裕がありません。そこで、最近開発された非侵襲的陽圧換気(NIPPV)という方法を利用し始めました。これは、気管挿管といって、直径が1cmくらいの管を、気管支に挿入しなくても、鼻と口をピッタリ覆うようなマスクを装着することで、呼吸が停止しても、肺に強制的に空気を送る機械です。

意識と痛みが完全に無くなるまで、静脈麻酔を投与しても、この非侵襲的陽圧換気を行うと、呼吸は停止しません。患者さんには「寝ている間に、アブレーションが終わってとても楽だった。」とても好評で、アブレーションを実施する医師にとっても、患者さんの痛みに伴う体動がなくなり、呼吸も停止せず、ストレスが減少し、手技時間が短縮します。おそらく、成功率向上にも寄与すると思われます。

私達はこの方法を2013年8月から導入しました。もう患者さんに「アブレーションは痛くて、辛かった。」とは言わさずに済むと思います。
左側の小さい機械が非侵襲的陽圧換気を行う機械です。チューブが1本患者さんに伸びて、呼吸を管理しています。