2015年12月10日木曜日

心臓の耳は脳梗塞の温床部位

心房細動は脳梗塞になりやすい。その原因となる血液の塊(塞栓源)はほとんどが左心耳に存在します。心耳とは心臓の両側にまるで耳のようにくっついているのでそう呼ばれていますが、その左側のものが左心耳です。この左心耳、脳梗塞の予防のために、心臓手術の際についでに切除されることもあります。左心耳がなくなっても、患者さんにとって、特に都合の悪いことは発生しません。


脳梗塞を引き起こす原因となり、切除されてもとくに不都合を生じないような心耳を、どうして神様は創り給うたのか。心耳は胎生期(母親の胎内にいる頃)には、原始心房としてポンプ機能をもって働いています。胎内で心臓が成長してくると、肺静脈の一部が左右の心房に変化し、原始心房は心耳として残されるのです。心耳には、胎生期にポンプ機能を果たすために必要であった心筋が櫛状に残存し、そこに血液が停滞しやすいので、血栓の温床部位となってしまうのです。


この左心耳を胸腔鏡下で完全にとりさる治療を行う心臓外科医が、東京都立多摩総合病院にいらっしゃいます。その先生の書かれた論文(1)によると、10年以上の慢性心房細動があり、血栓塞栓症の既往がありながら、何らかの理由で抗凝固療法(ワルファリンやNOAC)を実施できない30人の患者さんに、この治療を実施したところ、平均16ヶ月の経過観察で、抗凝固薬を内服しなくても脳梗塞を起こした人はいないそうです。

同じ様な患者さんが沢山いらっしゃる訳ではないかもしれませんが、非常に重要な治療だと思います。横須賀にも一度来ていただいて、手術をお願いしたことがあり、見学させていただきましたが、素晴らしい技術でした。

黄色で取り囲まれた物が左心耳に形成された血栓です。抗凝固療法を実施されていない患者さんにできていました。その後ワルファリンを開始し、この血栓は次第に消失し、脳梗塞を合併せずにすみました。


参考文献
(1)Ohtsuka T, Ninomiya M, Nonaka T, Hisagi M, Ota T, Mizutani T. Thoracoscopic Stand-Alone Left Atrial Appendectomy for Thromboembolism Prevention in Nonvalvular Atrial Fibrillation. J Am Coll Cardiol. 2013;62:103–107.

2015年12月7日月曜日

心房細動と認知症

以前から認知症患者に心房細動を患っている人が多いのは良く分かっていました。しかし、両者に直接の因果関係があるかは不明だったのです。

最近報告された研究によると心房細動患者はそうでない人に比較し、認知症を発症しやすいことが明らかとなりました。オランダで実施された研究で(1)、認知症になっていない6514人を20年間経過観察しました。その内、318人(4.9%)の人が最初から心房細動を患っていたそうです。

20年間の経過観察で、994人(15%)が認知症を発症しました。心房細動患者はそうでない人に比較して、1.3倍この認知症になりやすかったようです。

どのような心房細動治療を行えば、将来の認知症が予防可能かは、まだ良くわかっていません。認知症発症までに時間がかかるので、かなりの長期間の研究が必要です。しかし、カテーテルアブレーションで心房細動が根治されれば、認知症も予防可能になることが十分期待されます。

夏の北海道、名寄の病院に行く途中の草原です。冬の景色が一変していました。


参考文献
(1)de Bruijn RFAG, Heeringa J, Wolters FJ, Franco OH, Stricker BHC, Hofman A, Koudstaal PJ, Ikram MA. Association Between Atrial Fibrillation and Dementia in the General Population. JAMA Neurol. 2015;72:1288–1294. 



原因不明の動悸 携帯型心電計の果たす役割

「動悸を自覚しています。発作が起きて病院に駆けつけても、到着した時は、すでに止まっていています。医師からは心電図は正常だと言われるだけです。」当院を訪れる患者さんの訴えの一つです。

不整脈の診断は時として困難なことがあります。理由は、不整脈発作時間が短く、現場を押さえられないからです。重症の基礎疾患があれば別ですが、発作が起きていないときに、精密検査をどれだけ実施しても、動悸の原因が何か分からないことが多いのです。

そこで出番となるのが、オムロンの携帯型心電計。スマートフォン程度の大きさで、携帯可能であり、機械の一部を胸に当てるだけで、非常に明瞭な心電図をとることができます。心電図のp波、QRS波が明瞭に分かるので、不整脈の細かい診断まで可能です。

私の外来に通院されている不整脈疾患の多くの患者さんが、これをお持ちです。アブレーションの後に動悸症状があった場合に、この心電計で記録をつけて外来に持って来られます。私がそれを見て、診断を下すのです。有力なツールです。

右側のオレンジの部分に指を当て、左側の金属部分を胸に押し当てます。画面にも写っていますが、とてもクリアな心電図が記録できます。詳しくはウェブで。私とこの心電計の発売元との金銭的授受はありません。



2015年12月6日日曜日

「新しい血液サラサラの薬がでましたけど、これに変えますか?」

ワルファリンを内服している心房細動患者さんと担当医の外来診察室での会話です。
患者:「野菜を摂る量が不足しているのですが、少しなら食べてもよいですか?」
医師:「では、新しい血液サラサラの薬がでましたが、これに変えますか?」
患者:「それに変えると、野菜を食べても良いのですか?」
医師:「はい、野菜はもりもり食べても構わなくなりますが、ちょっとお値段が・・。」

心房細動は脳梗塞を合併しやすい。その予防薬は、1962年から50年間このワルファリン一剤しかありませんでした。ワルファリンの問題は、1)ビタミンKを多く含む食物(納豆、ブロッコリー、緑黄色野菜)の摂取を制限する必要がある、2)1年間に100人中1人脳出血、消化管出血などの重大出血性合併症を起こす人がいる、そのために3)定期的に採血して効き目を確認する必要がある、ということです。

そこで、2011年にワルファリンに変わる新規経口凝固薬(NOAC=ノアック)のプラザキサが発売されました。それから現在に至るまで、合計4つのNOACが出そろいました。NOACすべてに共通する特徴は1)食事制限の必要がない、2)値段が高い(一日当たりの保険がきいていない値段:NOACは546円、ワルファリンは3錠で19円、実に19倍)ということです。下のその4つの薬の比較表を出します。

ワルファリンとNOAC、どちらを選ばれても、脳梗塞予防効果の差はほとんどありません。ちなみに今日本で一番売れているNOACはエリキュースです。その理由はワルファリンよりも効果と安全性の点で、優れていることが示された唯一の薬だからです。しかし、NOAC4つの薬をそれぞれで比較しているわけではないので、4つの中で最も良い薬と言うわけではありません。

各薬剤がそれぞれ心房細動患者の脳梗塞の予防の効果と安全性について、ワルファリンとの比較試験を行いました。⇔はその項目の発症率がワルファリンと同等、↑はワルファリンより多い、↓ワルファリンより少ないという意味です。それぞれの試験の対象となる患者さんの背景がことなるので、各薬剤ごとの比較にはなりません。








2015年12月5日土曜日

いびきと心房細動

一見関係のなさそうな「いびき」と「心房細動」。実はとても密接な関係があります。

睡眠中にしばらく呼吸が止まり、それが解除されるときに大いびきをかく。この呼吸停止時間が長く続くと、熟睡感がなくなり、日中に集中力が欠け、眠たくてしょうがなくなり、ひどい場合には意識が消失してしまいます。「無呼吸症候群」という病気です。

原因は様々ありますが、多くは肥満のために、睡眠中、舌根が沈下し、気道を閉塞して呼吸が停止してしまいます。治療としては、痩せることも効果がありますが、睡眠中に簡易型の人工呼吸器をとりつけるCPAPという治療が有効です。

実はこの無呼吸症候群の患者さんは心房細動になりやすいのです。無呼吸中の低酸素血症が、心臓に負担をかけ心房細動になると言われています。心房細動のカテーテルアブレーション目的で来院された患者さんに重度の無呼吸症候群が認められたので、まずはCPAP治療を試したら、心房細動が全く起きなくなったという人もいるくらいです。
8月の初め、富士山に登りました。高地では酸素が薄いために、低酸素血症となり、頭痛、吐き気を催します。いわゆる「高山病」です。無呼吸症候群も同じ。低酸素血症のために、起床時に頭痛や吐き気を自覚することがあるのです。私はカメのような速度で登ったので、幸いにも低酸素血症にはなりませんでした。

新しい鎮静道具

「I gel(アイ ジェル)」新しい便利な鎮静道具です。

カテーテルアブレーションは激しい痛みを伴いますので、全身麻酔を実施すると楽に治療が行えます。しかし、麻酔中は人口呼吸器を使用しなければなりません。その際、挿管チューブを狭い気管支に無理矢理押しこむので、術後に咽頭の違和感が長く続くことがありました。また、のど周辺の解剖により、この挿管行為そのものが難しい患者さんもいました。

そこで、下の写真のI gelが開発されました。咽頭の奥に押し込むだけで、写真右側の部分が気管支入口をソフトに包み込み、空気を肺に送り込むことができるのです。気管支の中に直接入ることがないので、術後の咽頭違和感がなく、また、挿入行為そのものも、極めて容易に行なえます。

先月から、私はカテーテルアブレーション中にこのI gelを使用し始めました。麻酔薬を使用し、患者さんが完全に寝てしまってから、これを使用します。患者さんが痛みを感じることは全くありません。また、術者にとっても、患者さんの呼吸が不安定になることが一切ないので、手技がとてもやりやすくなりました。成功率の向上に寄与します。

I gelです。左側が人口呼吸器につながり、右側は気管支を包み込むように留置されます。

2015年12月4日金曜日

クライオアブレーション 新しい心房細動の治療方法

クライオアブレーションという心房細動の新しい治療方法が使用可能となりました。直径が28mmのバルンをマイナス50度に冷やし、肺静脈に入口部に押し当てそこを壊死させ、肺静脈を隔離する方法です。当院では1年前から使用し始めています。

人の組織はマイナス4度になると凍傷が起こり始めます。この方法では肺静脈入口部を一気にマイナス50度まで下げるのでバルンに接触した心筋はあっという間に壊死してしまいます。肺静脈を隔離するのに、従来の高周波アブレーション方法では1本当たり5分程度かかっていましたが、クライオアブレーションでは早い時には30秒で済んでしまいます。

では治療成績はどうなのか、発作性心房細動患者を均等に2群に分けて高周波アブレーション法とクライオアブレーション法を実施した場合、1年後に心房細動が治癒している人は両群とも85〜88%でほぼ同等でした(1)。クライオアブレーションの利点は、手技が簡便なため、術者にとって技術習得に時間を要しないということ。欠点は肺静脈しか治療できないことと、横隔膜麻痺という合併症が一定頻度(5〜10%)で発症してしまうことです。

心房細動の原因は、肺静脈以外にも10〜15%存在します。そういうところは、カテーテルを使用し、高周波アブレーション法で治療するしかありません。私にとっては、高周波カテーテルアブレーションは”刀”、クライオアブレーションは”爆弾”の様なものです。”刀”は自由度が高く、自分が動きまわることにより、対象がどこにいようが倒すことができるので、技術を磨く楽しさがあります。爆弾は威力があり殺傷能力は高いものの、使用する際に余り魅力を感じません。患者さんにとって不謹慎かもしれませんが、手術をしていて楽しいのは従来通りの高周波アブレーション法です。

バルンに液体窒素に流入しバルンをマイナス50度まで冷却します。肺静脈入口部を閉塞させて壊死させます。
参考文献
(1)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25186456