2017年1月10日火曜日

たばこと心房細動

心房細動の患者さんの診察中に、夫の喫煙を止めさせたい奥様から、「たばこは心房細動の原因にならないのですか?」と良く質問されます。

「たばこと心房細動」その両者の関係を調べた疫学的研究が6つあります。その内2つの研究は両者に関係はないとしていますが、他の4つの研究は、喫煙は心房細動の危険因子であると指摘しています。喫煙により1.5倍心房細動を引き起こしやすくなるようです。

実験ではニコチンにより心筋に線維化が起こることも判明しました。線維化した心筋では電気がスムーズに流れなくなり、一旦始まった心房細動が続きやすくなってしまいます。これは持続性心房細動のメカニズムの一つの心房細動基質という状態です。

禁煙することで、心房細動の発症率は非喫煙者と同等になることも明らかにされています。喫煙者は平均で10年寿命は短くなりますが、30歳、40歳、50歳、60歳で禁煙すると、それぞれ、10年、9年、6年、3年、寿命を稼ぐことができます。できるだけ早期に禁煙することが重要です。


東京ハートリズムクリニックから西の方を見た風景です。
この中に小さいのですが、私の大好きな以前登ったところが写っています。

2016年10月21日金曜日

320列CTで分かること

当院では、造影剤アレルギーがなく、腎臓の機能も問題が無い方は、アブレーションを実施する前に、心臓造影CTを行っています。CTは東芝社製のAquilion ONEです。この機器は320列の検出器が0.35秒で体の周りを1回転し、一度に16cm幅のものが撮影できます。心臓の大きさは、ほとんどの人で16cm以下ですので、1回転ですべて撮影可能です。

心臓造影CTの検査目的は、1)心臓の解剖の把握、2)左心耳に血栓がないことの確認、3)冠動脈の性状の確認です。

心臓の解剖を把握すると、それはそのまま、アブレーションの焼灼の際に役に立ちます。左心耳に血栓がないことを確認することはアブレーション前には必須です。CTを実施することで、評判の悪い経食道心エコーも省くことができます。また、冠動脈に狭窄(狭心症)があると、アブレーション手術に支障を来すことがあります。

下記の画像は当院で撮影されたものですが、冠動脈、心房、左心耳等が極めて明瞭に描画されています。このような術前情報は、手術の際にとても役にたちます。


左:冠動脈が小さい枝まで描出されています。中央:左心房を後ろから見たところ、4本の肺静脈の解剖が明らかです。右:左心耳に造影剤が末端まで流れ込み、血栓は認められません。

名刀正宗にさらに磨きがかかりました。

東京ハートリズムクリニックを開院して1ヶ月半が経過し、スタッフも仕事に慣れ、院内業務もスムーズに流れ始めました。9月の最終週から、アブレーションも開始し、今日の段階で、17人の患者さんの手術が無事終了しています。

以前、先端に56個の冷却水の噴射孔がある切れ味するどい名刀正宗をご紹介しました。名前はサラウンドフローと言います。しかし、先端に精巧な細工を施す必要があったため、カテーテル先端にかかっている圧を感知するセンサーを取り付けることが技術的に難しかったのです。

しかし、ようやく、56穴でなおかつ圧センサーも付いているアブレーションカテーテルが開発されました。スマートタッチ・サラウンドフローと言います。当院でも今週から使い始めました。印象は「素晴らしい切れ味の刀」です。包丁でもハサミでもそうですが、切れ味が悪いと、無駄に力をかける必要があり、なおかつ、切れた部分も見た目が綺麗でありません。アブレーションカテーテルもそうです。切れ味が良いと、無駄な力(押す力と電流出力)をかけずに済み、焼灼部分も境界が明瞭ですので、こちらのデザイン通りに治療できます。

軽い力で焼灼できるので、安全性も高まります。また、アブレーションに伴う無症候性脳梗塞合併頻度も6穴よりも56穴の方がかなり少ないのです。カテーテルアブレーションの効果、安全性はさらに向上してきています。


アブレーションカテーテルの先端に細かい穴があり、その手前に圧センサーがついています。以前の6穴のものと比べていただければ、その穴の多さは一目瞭然です。

2016年8月25日木曜日

東京ハートリズムクリニック

私、桑原大志は横須賀共済病院を平成28年7月末日に退職し、東京都世田谷区に有床診療所を開設しました。

診療所の名称は「東京ハートリズムクリニック」で、不整脈診療に特化したクリニックです。

横須賀共済病院時代は、師匠の高橋淳先生を始めたくさんの方々にお世話になりました。横須賀で培った技術を、世田谷の地で十二分に発揮したいと思っています。

このブログは今後も継続していきます。
東京ハートリズムクリニック 玄関です


2016年6月28日火曜日

クライオアブレーションか高周波アブレーションか? 大規模臨床試験の結果

クライオバルーンアブレーションと高周波カテーテルアブレーションの、心房細動の治療成績を比較する無作為試験が、ヨーロッパで行われました。非常に質の高い、しっかりとした試験です。

結果は両者とも治療成績は同じでした。発作性心房細動患者にアブレーションを実施し、1年後に洞調律(正常の脈拍)を維持出来た人は、どちらの方法を用いても65%です(下グラフ)。

「65%とは低い成功率」だと思われるかもしれません。
これは、どちらの治療方法を用いようが、肺静脈隔離術しか行っていないからだと思われます。よってこの試験は、2つの治療方法の「心房細動の治療効果」を比較するのではなく、「肺静脈隔離ができたかどうか」を比較する試験と言えます。

心房細動の85%は、肺静脈から起こりますが、15%は肺静脈以外のところからも発生します。後者の患者さんは、そこを治療(各個撃破)しないと、心房細動は治りません。これは、高周波カテーテルアブレーションを使用しないと出来ません。

この各個撃破の治療を行うには、相応の技術が必要です。故に、技量の高い術者が施行するならば、高周波カテーテルアブレーションを使用した方が、心房細動の治癒率は高いと思います。

それと、患者さんには関係のないことかもしれませんが、クライオバルーンアブレーションばかりしていると、後継者が育ちません。高周波カテーテルを用いて、肺静脈隔離術ができないような医師が、肺静脈以外の心房細動起源を治療できるとは思えません。
縦軸は心房細動が再発した人の割合、横軸はアブレーション後の日数です。RFCが高周波カテーテルアブレーションのことで、Cryoballoonとはクライオバルーのことです。
参考文献N Engl J Med 2016; 374:2235-2245


2016年6月20日月曜日

クライオバルーンかホットバルーンか?

今年、ホットバルンアブレーションの認可がおりました。葉山ハートセンターの佐竹先生が、それこそ、心血を注いで開発されたものです。横須賀共済病院は、発売前からこのホットバルーンアブレーションの治験に参加し、私もたくさんの使用経験があります。

基本的な原理はクライオバルーンと同様で、心房細動起源の巣窟である肺静脈隔離を行います。クライオバルーンには液体窒素を入れますが、ホットバルーンは、造影剤と生理食塩水を入れて、それを温めて使用します。バルーンの温度は約80℃に上昇し、接触した心筋が温熱壊死します。
 
日本で行われた治験では、発作性心房細動患者さんに対して、ホットバルーンアブレーションを行うと、手術250日後に、心房細動が再発せず、正常脈拍を維持できる人は約60%です。主な合併症は肺静脈狭窄で、5%の患者さんに発症しています。クライオバルーンの肺静脈狭窄の頻度は、これより少ないのですが、横隔膜麻痺はクライオバルーンアブレーションの方が多くなります。

なお、クライオバルーンは大きさが一定ですが、ホットバルーンは入れる液体の量とバルーンを押す力により、大きさを自由に変形させることができます。肺静脈の直径や形は、個人により様々ですので、これは、ホットバルーンの優れた点です。この優越点を十分に活用すると、肺静脈隔離以外に、左心房の後壁も治療できる可能性があります。左心房の後壁は、心房細動起源が多く存在する場所です。将来性のある、治療機器です。

ホットバルーンの利点は、バルーンの形を自由に変えることが出来ることです。上の写真は、ホットバルーンの形を変えて、左心房の後壁を隔離している様子です。
出典 J Cardiovasc Electrophysiol. 2015;12:1298-306 

2016年6月13日月曜日

競馬と心房細動 ー大きい心臓は心房細動になりやすいー

心房細動中の心臓内の電気的興奮状態はカオス(混沌)と表現されます。簡単に言うと、心房細動中は、「無茶苦茶」「てんでバラバラ」に電気が心房内で興奮しているということです。

例えると、学校の昼休みに、運動場で子供たちが自由気ままに遊び回るようなものです。全体としての統制は全くとれていない。しかし、動き回るためには、ある程度の広さの運動場が必要です。運動場がたたみ一畳ほどの大きさしかなければ、動きまわりようがありません。

心房細動も同じです。電気が心房の中を自由勝手に動き回るためには、ある程度の広さの心房が必要となります。日本人よりも西洋人の方が、体も大きく、心臓も大きいので、心房細動になりやすい。

馬の心臓も大きい。競走馬ならば、激しい運動もします。競走馬保健衛生年報によると、毎年10〜50頭の馬が、心房細動と診断されています。その内レース中に発症している馬は20〜25頭です。競馬中に、突然失速する馬がいますが、その原因のほとんどは、発作性心房細動を発症したことだそうです。

私はブラタモリの大ファンです。ついに、ブラタモリが横須賀にやって来ました。6月18日、放送予定です。皆さん見て下さいね。