2015年1月26日月曜日

アブレーション翌朝の苦悶 男性ならではの苦痛 「この痛みをどうにかしてくれ」

ほとんどは男性患者さんの話です。カテーテル室に入って来る際に、お尻を後ろに引きずりながら、内股で入って来る方がいます。尿道に挿入されたバルンカテーテルを不快に感じているのです。「おしっこが出そうな気がしてしょうがない」としきりに訴えます。翌日には、「排尿すると激痛がありつらい」と続きます。尿道の大きさとバルンカテーテルの太さが合わなかったために、尿道を少し傷つけてしまったのです。

尿量に比較して、点滴の量が多すぎると、肺に水がたまる心不全になってしまうので、術中には尿量を正確に把握したい。また、寝たまま、排尿するのは困難だろう。それらが尿道バルンカテーテルを挿入する理由です。

しかし、手術といっても僅か2〜3時間程度。それほど厳密な尿量の測定が必要か?と疑問に思い、尿道バルンカテーテルなしで、100人の患者さんに心房細動アブレーションを実施してみました。結果は、「尿量が測定できずに、心不全症状を来した人は0、排尿したいが、出来ずに細い尿道カテーテルが必要だった人は2人、術中に尿漏れがあった人は2人、残りは、術後、仰向けでも尿瓶に何の問題もなく排尿できたか、立位をとれるまで排尿感がなかった」でした。術中の尿漏れは、術中に、尿瓶を当てておくことで、対応できそうです。

心房細動アブレーション中の「尿道バルンカテーテル留置の必要性」は、半ば常識の様に思われていましたが、これは医療者の思い込みであることが判明しました。時には、特に患者さんが嫌がっている際には「常識を疑う」ことが重要です。

今年も行きました。真冬の名寄市立総合病院への出張アブレーション。翌日に、「雪質日本一」と誉高いピヤシリスキー場へ。雪はまさにさらさら。青空とのコントラスが映える樹氷が美しい。




2015年1月23日金曜日

「あの検査をやるなら、アブレーションは受けたくない」 手術前の経食道エコーは本当に必要か?

「あの検査を手術前にやるなら、アブレーションは受けたくない。」と多くの患者さんが訴える検査があります。それは、経食道エコー検査です。心房細動患者さんには、左心房の左心耳というところに、血栓がついていることがあります。そのような状態で、アブレーションを実施すると、カテーテルでその血栓を飛ばしてしまい、手術中に脳梗塞を合併する可能性が高い。故に、予めそこに血栓があるかないか確認しておく必要があります。

左心耳といのは、心臓との間に何の障害物もない食道から観察すると、極めて美しく描出できます。しかし、その経食道エコーは、エコーの先端にカメラがついていないために、食道に挿入する際に、患者さんの「嚥下運動」の協力が必要です。つまり、人差し指の太さほどの管を飲み込んでもらわなければならないのです。これが苦痛なのです。数%の患者さんはどうしても飲み込めなくて、検査がキャンセルになることもあります。

そこで「奥の手」があるのです。それは”胸部造影CT”です。造影剤を注射した後に、タイミングを見計らって胸部のCTを撮影します。造影剤がしっかりと左心耳に流入していれば、血栓はないと診断できます。反対に、左心耳に造影剤が流入せずに、欠損像があれば、血栓がついているか、もしくは左心耳への血液流入速度が遅いことが考えられます。経食道エコー検査は、そのような患者さんに限定して実施すれば良いのです。実際に、そのような所見が得られるのは、全体の約1割です。その1割の4人に1人は、経食道エコー検査で血栓が見つかります。

造影CTを実施しなけらばならないので、コスト、造影剤アレルギー、放射線被ばくの問題が生じます。しかし、そのぶん経食道エコー検査の件数が全体として減少し、患者さんの嚥下の負担はなくなり、また造影CTで得られた画像はそのまま、アブレーションに利用できるというメリットが生まれます。それらすべてを考慮すると、有望な検査の一つと思われます。

黄色矢印で示した部位が左心耳です。この患者さんは造影剤が十分左心耳の中に流入しています。欠損像はなし、つまり、血栓はないと診断しても構いません。画像は当院データ。
参考文献










2015年1月5日月曜日

ジキタリス

下に示す花はジギタリスという花です。猛毒をもっており、取扱いには、注意が必要です。福島の山中にある旅館で栽培されているのを偶然見つけ、写真に収めました。猛毒ですが心房細動の治療薬として用いられています。

ジギタリスは、心筋の収縮力を増加させ、心不全症状を改善させます。しかしながら、生命予後を改善させることはありません。心不全を伴った頻脈性心房細動に特に有用で、心房細動が止まることはありませんが、心拍数が遅くなり、心不全症状が軽快します。
  
副作用は食欲不振や黄視(世界が黄色く見える)等で、画家のゴッホの絵が黄色いのはジギタリス中毒だったためではないかと言われています。

「猛毒を持った花も、さじ加減によっては、病気を治すことが出来る。」医学研究は本当に面白い。