2012年4月27日金曜日

花畑

カルト。といっても新興宗教ではありません。心臓の回りに磁場を作成し、アブレーションカテーテルの先端が心臓のどこにあるのか、3次元的に把握するシステムです。原理はカーナビゲーションのGPSと全く同じです。現在では不整脈治療に欠かせない重要なツールで、多くの施設でカルトを使用し、アブレーションを実施しています。当院のカテーテル室にも最先端のカルト3という機械が3台備わっています。

しかし、このカルト。特徴を十分に理解して使用しないと大きなしっぺ返しをくらいます。例えばカーナビの場合、人工衛星の捕捉状態によれば、道案内が遅れることがありますね。また、知らない土地に行く時、GPSがあるととても便利ですが、よく知っている所へは、GPSを使わなくても、渋滞のタイミングを計り、近道を通って、安全に早く到達することができます。却ってGPSに従ったほうが、危険で時間のかかる場合もあります。

カルトも同じです。時折、カテーテル先端の3次元的位置情報が実際のそれとズレることがあります。ですから、正確なカテーテルの位置は、アナログ情報で把握するしかありません。当院ではカルトが隆盛になる前から、レントゲンで見えるカテーテルの動き、手に伝わるカテーテルの感覚、カテーテル先端の電位情報を元にアブレーションを行なっており、カルトを使用したアブレーションと同じレベルのアブレーションが実施できていました。

当院でも毎日カルトは使用しています。しかし、機械は上手に使わないとその威力を発揮できないのです。現在では、後回しにされるような術者の五感を使用したアブレーションを大事にしないと、本当の職人医師にはなれないと思います。

カルト像
当院のA病棟の花畑です。色使いがなんとなくカルトと似ていません?






2012年4月26日木曜日

ゴミの中に宝

ゴミ。
少々、お行儀の悪い言葉ですが、不整脈治療を実施する医師が良く口にすることばです。
何がゴミか?心臓の中の、僅かに記録できるかできないか程度の小さい電位のことを指します。余り重要でないことがほとんどですが、時にそのゴミに宝が隠されていることがあります。

つい先日、アブレーションを実施した患者さん。
3年間、脈拍が120~130拍/分程度の心房粗動が続いています。実を言うと3年前に、私がその心房粗動に対してアブレーションを実施し、成功裏に終わらなかった患者さんです。抗不整脈薬も無効で、持続する心房粗動のため、心拡大が進行し、心不全兆候が出現し始めました。この3年の間にイリゲーションカテーテルという、新しいアブレーションカテーテルも使えるようになったので、もう1回治療を試みようということになりました。

心房内をくまなく調べると、心房粗動の回路が明らかとなり、そのキモとなる部位が、下記の僅か0.25mV程度のゴミ電位です。余程注意深く見ないと見過ごしてしまう電位で、おそらく心筋の奥深くから出てくる電位です。アブレーションカテーテルの先端を、そこに押し当て、通常より、高い出力で通電しました。すると通電開始から28秒後に、その心房粗動が停止し、正常の洞調律に復帰したのです。その瞬間、手術室にいた全員から歓声と拍手が沸き起こりました。医者をやっていて、全身で喜びを感じる瞬間の一つです。

何気なく見過ごしてしまうもの。その中にも治るためのヒントが隠されていることがあります。集中力がとても重要な仕事です。
(矢印の間がゴミ電位です)



2012年4月24日火曜日

ワルファリン

ワルファリンという薬があります。
心房細動患者さんにとってはとても重要な薬で、血液が凝固するのを抑制し、脳梗塞を予防してくれます。しかし、その効果が故に、血が止まりにくくなり、出血しやすいという副作用も持ち合わせています。

そのため当院では以前は、アブレーションによる出血性合併症のリスクを少なくするために、心房細動のカテーテルアブレーションを行う前に、一旦ワルファリンを中止していました。

しかし、現在ではワルファリンを内服したままアブレーションを実施しています。その方が手術中の脳梗塞の合併を、極めて低くするこができると判明したからです(1)。しかも、ワルファリンの効果を中和しくれる注射も開発され、万が一出血性の合併症が起きたとしても、すぐに出血も止めることができます。これで最近では脳梗塞の合併をあまり心配せずに、治療することが可能となりました。ワルファリンに感謝、感謝です。

ところでこのワルファリン。元をたどればシナガワハギなどのスイートクローバーから精製されたものだそうです。このスイートクローバーを家畜に食べさせたところ、出血がとまらなくなり、その原因を研究している際に、抗凝血作用を有するジクロマールという物質が判明し、ワルファリンはそれをもとに合成されました。

スイートクローバーの花(ウイキペディアより)
参考文献 (1)Kuwahara T, et al. J Cardiovasc Electrophysiol. 2013 May;24(5):510-5