2016年10月21日金曜日

320列CTで分かること

当院では、造影剤アレルギーがなく、腎臓の機能も問題が無い方は、アブレーションを実施する前に、心臓造影CTを行っています。CTは東芝社製のAquilion ONEです。この機器は320列の検出器が0.35秒で体の周りを1回転し、一度に16cm幅のものが撮影できます。心臓の大きさは、ほとんどの人で16cm以下ですので、1回転ですべて撮影可能です。

心臓造影CTの検査目的は、1)心臓の解剖の把握、2)左心耳に血栓がないことの確認、3)冠動脈の性状の確認です。

心臓の解剖を把握すると、それはそのまま、アブレーションの焼灼の際に役に立ちます。左心耳に血栓がないことを確認することはアブレーション前には必須です。CTを実施することで、評判の悪い経食道心エコーも省くことができます。また、冠動脈に狭窄(狭心症)があると、アブレーション手術に支障を来すことがあります。

下記の画像は当院で撮影されたものですが、冠動脈、心房、左心耳等が極めて明瞭に描画されています。このような術前情報は、手術の際にとても役にたちます。


左:冠動脈が小さい枝まで描出されています。中央:左心房を後ろから見たところ、4本の肺静脈の解剖が明らかです。右:左心耳に造影剤が末端まで流れ込み、血栓は認められません。

名刀正宗にさらに磨きがかかりました。

東京ハートリズムクリニックを開院して1ヶ月半が経過し、スタッフも仕事に慣れ、院内業務もスムーズに流れ始めました。9月の最終週から、アブレーションも開始し、今日の段階で、17人の患者さんの手術が無事終了しています。

以前、先端に56個の冷却水の噴射孔がある切れ味するどい名刀正宗をご紹介しました。名前はサラウンドフローと言います。しかし、先端に精巧な細工を施す必要があったため、カテーテル先端にかかっている圧を感知するセンサーを取り付けることが技術的に難しかったのです。

しかし、ようやく、56穴でなおかつ圧センサーも付いているアブレーションカテーテルが開発されました。スマートタッチ・サラウンドフローと言います。当院でも今週から使い始めました。印象は「素晴らしい切れ味の刀」です。包丁でもハサミでもそうですが、切れ味が悪いと、無駄に力をかける必要があり、なおかつ、切れた部分も見た目が綺麗でありません。アブレーションカテーテルもそうです。切れ味が良いと、無駄な力(押す力と電流出力)をかけずに済み、焼灼部分も境界が明瞭ですので、こちらのデザイン通りに治療できます。

軽い力で焼灼できるので、安全性も高まります。また、アブレーションに伴う無症候性脳梗塞合併頻度も6穴よりも56穴の方がかなり少ないのです。カテーテルアブレーションの効果、安全性はさらに向上してきています。


アブレーションカテーテルの先端に細かい穴があり、その手前に圧センサーがついています。以前の6穴のものと比べていただければ、その穴の多さは一目瞭然です。

2016年8月25日木曜日

東京ハートリズムクリニック

私、桑原大志は横須賀共済病院を平成28年7月末日に退職し、東京都世田谷区に有床診療所を開設しました。

診療所の名称は「東京ハートリズムクリニック」で、不整脈診療に特化したクリニックです。

横須賀共済病院時代は、師匠の高橋淳先生を始めたくさんの方々にお世話になりました。横須賀で培った技術を、世田谷の地で十二分に発揮したいと思っています。

このブログは今後も継続していきます。
東京ハートリズムクリニック 玄関です


2016年6月28日火曜日

クライオアブレーションか高周波アブレーションか? 大規模臨床試験の結果

クライオバルーンアブレーションと高周波カテーテルアブレーションの、心房細動の治療成績を比較する無作為試験が、ヨーロッパで行われました。非常に質の高い、しっかりとした試験です。

結果は両者とも治療成績は同じでした。発作性心房細動患者にアブレーションを実施し、1年後に洞調律(正常の脈拍)を維持出来た人は、どちらの方法を用いても65%です(下グラフ)。

「65%とは低い成功率」だと思われるかもしれません。
これは、どちらの治療方法を用いようが、肺静脈隔離術しか行っていないからだと思われます。よってこの試験は、2つの治療方法の「心房細動の治療効果」を比較するのではなく、「肺静脈隔離ができたかどうか」を比較する試験と言えます。

心房細動の85%は、肺静脈から起こりますが、15%は肺静脈以外のところからも発生します。後者の患者さんは、そこを治療(各個撃破)しないと、心房細動は治りません。これは、高周波カテーテルアブレーションを使用しないと出来ません。

この各個撃破の治療を行うには、相応の技術が必要です。故に、技量の高い術者が施行するならば、高周波カテーテルアブレーションを使用した方が、心房細動の治癒率は高いと思います。

それと、患者さんには関係のないことかもしれませんが、クライオバルーンアブレーションばかりしていると、後継者が育ちません。高周波カテーテルを用いて、肺静脈隔離術ができないような医師が、肺静脈以外の心房細動起源を治療できるとは思えません。
縦軸は心房細動が再発した人の割合、横軸はアブレーション後の日数です。RFCが高周波カテーテルアブレーションのことで、Cryoballoonとはクライオバルーのことです。
参考文献N Engl J Med 2016; 374:2235-2245


2016年6月20日月曜日

クライオバルーンかホットバルーンか?

今年、ホットバルンアブレーションの認可がおりました。葉山ハートセンターの佐竹先生が、それこそ、心血を注いで開発されたものです。横須賀共済病院は、発売前からこのホットバルーンアブレーションの治験に参加し、私もたくさんの使用経験があります。

基本的な原理はクライオバルーンと同様で、心房細動起源の巣窟である肺静脈隔離を行います。クライオバルーンには液体窒素を入れますが、ホットバルーンは、造影剤と生理食塩水を入れて、それを温めて使用します。バルーンの温度は約80℃に上昇し、接触した心筋が温熱壊死します。
 
日本で行われた治験では、発作性心房細動患者さんに対して、ホットバルーンアブレーションを行うと、手術250日後に、心房細動が再発せず、正常脈拍を維持できる人は約60%です。主な合併症は肺静脈狭窄で、5%の患者さんに発症しています。クライオバルーンの肺静脈狭窄の頻度は、これより少ないのですが、横隔膜麻痺はクライオバルーンアブレーションの方が多くなります。

なお、クライオバルーンは大きさが一定ですが、ホットバルーンは入れる液体の量とバルーンを押す力により、大きさを自由に変形させることができます。肺静脈の直径や形は、個人により様々ですので、これは、ホットバルーンの優れた点です。この優越点を十分に活用すると、肺静脈隔離以外に、左心房の後壁も治療できる可能性があります。左心房の後壁は、心房細動起源が多く存在する場所です。将来性のある、治療機器です。

ホットバルーンの利点は、バルーンの形を自由に変えることが出来ることです。上の写真は、ホットバルーンの形を変えて、左心房の後壁を隔離している様子です。
出典 J Cardiovasc Electrophysiol. 2015;12:1298-306 

2016年6月13日月曜日

競馬と心房細動 ー大きい心臓は心房細動になりやすいー

心房細動中の心臓内の電気的興奮状態はカオス(混沌)と表現されます。簡単に言うと、心房細動中は、「無茶苦茶」「てんでバラバラ」に電気が心房内で興奮しているということです。

例えると、学校の昼休みに、運動場で子供たちが自由気ままに遊び回るようなものです。全体としての統制は全くとれていない。しかし、動き回るためには、ある程度の広さの運動場が必要です。運動場がたたみ一畳ほどの大きさしかなければ、動きまわりようがありません。

心房細動も同じです。電気が心房の中を自由勝手に動き回るためには、ある程度の広さの心房が必要となります。日本人よりも西洋人の方が、体も大きく、心臓も大きいので、心房細動になりやすい。

馬の心臓も大きい。競走馬ならば、激しい運動もします。競走馬保健衛生年報によると、毎年10〜50頭の馬が、心房細動と診断されています。その内レース中に発症している馬は20〜25頭です。競馬中に、突然失速する馬がいますが、その原因のほとんどは、発作性心房細動を発症したことだそうです。

私はブラタモリの大ファンです。ついに、ブラタモリが横須賀にやって来ました。6月18日、放送予定です。皆さん見て下さいね。

2016年2月16日火曜日

震災時の経験 シャープ空気清浄機

この時期になると病院でこのアナウンスが頻繁に流れてきます。
「インフルエンザが流行しています。手洗いを励行し、咳をされている方はマスクの着用をお願いいたします。」2011年3月末、福島県相馬郡新地町の震災避難所でも同じようにインフルエンザが蔓延していました。その時、医療ボランティとして、彼の地に滞在していたのです。

学校の教室が避難所として使われています。教室毎にインフルエンザの感染者数を調べていました。すると、幾つかの教室は、感染者が全くいないか、極端に少ないのです。実際にその一つの部屋に行ってみると、避難所特有の埃っぽさや独特の匂いがありません。それらの部屋にはある一つの共通した”もの”が置かれていたのです。それはどでかいシャープのプラズマイオン空気清浄機でした。

ちょうど同じ時期に、感染症学会雑誌に、国立病院機構仙台医療センターの 西村 秀一先生が、「各種空気清浄機を比べたところ、ヘパフィルター付きの空気清浄機(三菱電機製 MA-83D,MA-51D,シャープ社製 KC-Z80)が高いウイルス除去能力をもっている」と報告されていました。

それまで、空気清浄機などは正直に言うと全く信じていませんでしたが、その避難所での経験と上記論文を読んでからは、自宅や知人、親戚宅にはシャープ製空気清浄機がゴロゴロしています。
空気清浄機 とても良い物を作るシャープなのに、経営が厳しいと聞きます。頑張れ。

2016年1月13日水曜日

高血圧治療について 薬を飲む前にまずやるべきこと 野菜を食べよう

血圧が高い人に、しっかりと食べて欲しいものがあります。それは野菜です。

野菜にはカリウムが多く含まれています。野菜を摂って血液中のカリウム濃度が上昇すると、体は細胞の中にカリウムを取り込みます。その際、カリウムの交換として細胞内のナトリウムが血液中に放出されるのです。血液中のナトリウムが増えると、腎臓でのナトリムの再吸収が抑制されて、尿中へのナトリウムの放出と共に利尿がつき血圧が下がるのです。特に食塩感受性高血圧の人ほどこの野菜の降圧効果は明らかです。

また、野菜は食事の最初に食べてしまうことをお勧めします。野菜だけ完食してしまうのです。主食の糖質によって引き起こる過剰な血糖上昇を抑制し、ダイエット効果もあります。カリウムが多く含まれ、スーパーでよく売られて、なおかつ、満腹感の大きい野菜は、トマト、カリフラワー、キャベツなどです。

私も朝夕に山盛りのサラダを食べています。濃厚な高血圧家系の一員ですが、正常血圧を維持できています。尚、腎臓が悪い患者さんやワルファリン内服中の患者さんは、野菜の摂取を制限する必要がありますのでご注意ください。

野菜を切るのが面倒な人でも大丈夫です。
今は本当に良い時代、コンビニでカットキャベツもミニトマトも安くで売られています。








2016年1月11日月曜日

高血圧治療について 薬を飲む前にまずやるべきこと 減塩について

我々の施設で診療している心房細動患者さんの実に6割は高血圧を合併しています。高血圧は心房細動の3大原因の一つの心臓病の中に分類されるので、高血圧を治療することは、心房細動の発症予防、もしくはアブレーション後の再発予防につながります。

高血圧を認めたならば、薬を飲む前にまずやらなければならないことがあります。それは減塩です。日本人の約半数は食塩感受性です。食塩感受性とは、摂った塩分を尿に排出せずに、体の中にため込む性質です。この性質を持った人は、血液中の高くなった塩分濃度を下げるために、飲水量は増えますが、尿量は減少します。結果的に体の総水分量は増加するのですが、それを収納する血管の容積は変わらないので、血圧が上昇するのです。

日本人の平均食塩摂取量は10g/日で、摂取塩分の9割は、しょうゆと味噌の食物加工品由来です。自分が一日どの程度の食塩を摂取しているのかは、尿検査で推定可能です。尿中のNa/Cr比を測定し計算します。一般の病院でできる検査ですので、現在の自分の状態をご存知になりたい方は、かかりつけ医に相談されると良いでしょう。

また、食物にどの程度の塩分が入っているのか。とても便利なツールがあります。汁物であれば、その食事に含まれる塩分量を計測できる塩分計です。患者さんのお一人が紹介してくれました。塩を余り使わなくても、ダシを上手く使うことでおいしく料理をつくることができると言われていました。


高血圧治療で薬以外の方法でどの程度血圧が下がるかを示したグラフです。減塩、DASH食(野菜、果物)の摂取、減量、運動、節酒が重要です。出典 高血圧治療ガイドライン 2014。




2016年1月10日日曜日

心房細動のメカニズム

正常に脈拍が打つとき、心臓の中で電気刺激を出す司令塔は、右心房の洞結節という部分です。そこは1分間に50〜100回の頻度で規則正しく興奮しています。

心房細動の3大原因は加齢、心臓病、飲酒です。それによって心臓にストレスがかかると、心房に傷ができてしまい、その傷が心房細動起源になるのです。この起源は1分間に500〜600回という高頻度で興奮します。洞結節よりこの心房細動起源の興奮頻度が早いので、心房の興奮は心房細動起源に支配されてしまうのです。

心房は全体としては、この早い興奮についていけず、心房の各所が無秩序に、統制なく、てんでバラバラに電気興奮します。しかし、心房と心室の間にある房室結節という部分は、ゆっくりとしか興奮できないので、心房の高頻度興奮の一部分だけを心室に伝えます。そのために、心室は心房細動のときでも、50〜200回/分程度の興奮でおさまるのです。もし、この房室結節がなければ、心房細動時は心室も高頻度に興奮し、容易に心室細動になることでしょう。実際、非常に稀ですが、房室結節の伝導能力が良すぎると、心房細動から心室細動に移行する人もいるくらいです。

心房細動の治療とは、薬もしくはカテーテルで、この心房細動起源を、抑制、もしくは焼灼することに他なりません。

心房細動のメカニズム