2012年7月18日水曜日

カナダからの手紙

海外では使用可能な薬が日本で使えない。よくある話で、官僚の人手不足が根本的な原因と思われます。

同様、海外で使用可能なとても有用な機器が日本で使えません。カナダのベンチャー企業が開発した高周波中隔穿刺針のことです。針先から高周波電流を流し、簡単に心筋に小さい穴を開けることができます。元々、心臓手術後の分厚い心房中隔を穿刺するために作られたそうです。


普通の心房中隔の卵円窩というところは、伸展性のある膜で出来ているため、先端が鋭利な針で刺しても、ビヨーンと伸びきってしまい、症例によっては穴を開けるのに非常に苦労します。そういう症例では穴が開いた瞬間に針が心臓内に押し出され、開けてはいけないところに穴を開けかねません。心タンポナーデの原因にも成り得ます。

そこで、先の高周波中隔穿刺針をドクターライセンスを使って3本個人輸入し使ってみました。これが非常に良い。とても良い。卵円窩を押す必要が全くない。針を軽くあてて、高周波を流すだけで、安全に簡単に穿刺が可能です。早く全症例でこの中隔穿刺針を使用したい。この機器の使用願いは既に厚労省に申請されていますが、許可が降りるのはいつのことやら。お役人頑張れ!

最後に白いものが現れた時が高周波が出た瞬間です。簡単に安全に心房中隔に穴を開けることができます。この機器を早く使いたい。

2012年7月17日火曜日

心房細動アブレーション適応

別に示したように日本循環器学会から心房細動治療の新しいガイドラインが発表されました。薬剤に抵抗性のある発作性心房細動は、年間の心房細動アブレーション症例数が50症例以上実施している施設でカテーテルアブレーション治療を施行する場合、クラスⅠとなりました。クラスⅠというのは、その治療を実施した方が望ましいということです。

やっとアブレーション治療がクラスⅠに昇格したという思いです。では、持続性心房細動や慢性心房細動はどうなのか?これらはまだクラスⅡです。アブレーション治療を実施した方が、良いか悪いかはまだ良くわからないということです。

そこで、心房細動アブレーション治療の適応について私の考え方を簡単に説明します。これは合併症を伴いうる手術であればすべてに当てはまることです。つまり、アブレーション治療を実施して、成功裏に終わった時に患者さんが得られるメリット(利益)と、治療を実施することでもしかしたら被るかもしれないデメリット(不利益)を、しっかりと天秤にかけるというこです。利益の方が随分重いと判断した場合に、アブレーション治療を受けたほうが良い。利益と不利益は患者さんの状態により変わりますし、どちらが重いかは患者さんの価値観によっても変わってきます。利益は主に「動悸が改善する」「脳梗塞や心不全のリスクを遠ざけることができる」「ワルファリンが中止できる」等で、不利益は「合併症」ということになると思います。

医者も同様に、患者さん毎に、利益と不利益をはかりにかけています。その時の医者の考えは、患者さんに伝えますが、その考えを押し付けるわけには行かないので、最終的な判断は患者さんご自身でなさるということになります。この利益と不利益について、ご自身で良く判断できないかたは、一度ご相談ください。

患者さん毎に、アブレーション治療による利益と不利益を天秤にかけ、利益の方が重いと判断した時にアブレーション治療の適応となります。これは私の考えであり、すべての医者が同様の考えかどうかは不明です。

日本循環器学会心房細動アブレーション治療ガイドライン


以下に日本循環器学会から発表された新しい心房細動カテーテルアブレーション治療のガイドラインをお示しします。詳細については、このブログで後々説明致します。

クラスⅠ:
クラスⅡ a
 1. 薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性心房細動
 2. パイロットや公共交通機関の運転手等職業上制限となる場合
 3. 薬物治療が有効であるが心房細動アブレーション治療を希望する場合
クラスⅡb
 1. 高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認める薬物治療抵抗性の有症候の発作性および持続性心房細動
 2. 無症状あるいはQOLの著しい低下を伴わない発作性および持続性心房細動
クラスⅢ:
 1. 左房内血栓が疑われる場合
 2. 抗凝固療法が禁忌の場合

クラスⅠ:有益であるという根拠があり,適応であることが一般に同意されている
クラスⅡa:有益であるという意見が多いもの
クラスⅡb:有益であるという意見が少ないもの
クラスⅢ:有益でないまたは有害であり,適応でないことで意見が一致している
横須賀共済病院内にある、パン屋さんです。ここでパンを焼き上げますので、焼きたてのパンが食べられます。患者さんにはとても好評です。当院へお越しの際には、是非お立ち寄りください。

2012年7月8日日曜日

思い込み

思い込み。これほど、医療の現場において、危険な事故につながる原因はありません。私は当院の医療安全委員会に属していますが、院内で発症するヒヤリハットの原因はほとんどが思い込みです。


カテーテルアブレーション治療とは、心臓の中で起きている電気の流れを頭の中で整理しながら、カテーテルを動かしつつ、まるで詰将棋の様に、不整脈の原因場所を特定していくものです。実はこの作業が最も楽しい時間なのですが、この詰将棋を行なっているときに、「思い込み」という魔の手が襲ってくるのです。


詰将棋、別な言い方をすると、「犯人探し」をしているときに、それと思しき後ろ姿を発見したりすると、そこにいるはずだと思い込んでしまうのです。実は単にうしろ姿が似ているだけで、全く別人なのですが、探しているこちらはそうとは思いません。最後には、真正面から被疑者を捉え、こちらが誤っていたと気付くのですが、ドツボにハマるとそれさえも気づきません。


アブレーション治療をする前に、いつも回りに聞こえないように口ごもりながら反復します。「思い込むな」と。これで思い込みは少なくなるはず・・・と思いますが、これも思い込みかもしれません。
横須賀共済病院から10分ほど歩いた所にある三笠公園の戦艦三笠です。
私と同郷の秋山真之が乗った日本海海戦時の旗艦です。






2012年7月6日金曜日

技術革命

技術革命というほど大げさなものではないかもしれませんが、私が医者になった頃、20年以上も前のことになりますが、心臓超音波装置はとても大掛かりなものでした。機械本体は八畳間の半分も占める様な大きさで、そこから伸びるブルブルと振動するエコープローベを患者さんの胸壁に押し当てて心臓の中を観察していました。このエコープローベがとても貴重なもので、それだけで何と数百万円もし、尚且つ少しの衝撃でも故障するものですから、大切に大切に取り扱いました。落としたりでもしたら、先輩から大目玉を食らったものです。

時は移り、昨年11月から日本でも最新鋭のカルトサウンドという心腔内エコーが使用可能になりました。小型化したエコープローベを心臓の中に直接入れて観察するものです。勿論エコープローベは震えることはなく、そして、な・な・なんと使い捨てです。

胎児の時は右心房と左心房の間には小さい孔が開いていますが、成人になるとここに数mmの膜がはり、両心房間の連絡はとだえてしまいます。心房細動アブレーションの際には、ここに小さな穴を開け、左心房との連絡を確保しなければなりません。以前は、針先から造影剤を流しながら、膜の位置を”想像”し、最後には”エイや”という感じで針を刺して穴を開けていました。間違った場所を刺してしまうと、極めて稀ですが、心臓から血液が外に漏れてしまう心タンポナーデという合併症を発症してしまうこともありました。


心腔内エコーを使用するとこの薄い膜が一目瞭然です。針先が適切な部位を捉えているか確認してから、刺せるようになりました。術者も精神的にとても楽です。時代と共に医療技術は確実に進歩しています。


薄い膜のところが穿刺部位です

2012年7月5日木曜日

酒は百薬の長?

お酒にまつわることわざは沢山あります。「酒は百薬の長」「酒は天の美禄」「酒に三十五の矢あり」「酒は百薬の毒」など。良く言われたり、悪く言われたり。様々です。

昔の人は自分の経験だけで、良くもここまで真実を見抜いたものだと感心します。確かに、健康に関する限り、お酒は良いところも、悪いところもあり、どちらとも言えないのです。飲酒する人の健康状態によって全く違ってきます。

狭心症や心筋梗塞の患者さんでは、適量のお酒を飲む人の方が、全くお酒を飲まない人より、心疾患による死亡率が低くなります。一部の方には朗報でしょう!では心房細動はどうか?いままで沢山の研究がなされてきましたが、心房細動に関しては、残念ながら酒量が少ないほど、心房細動発症の危険性は下がります。つまり飲まないのが最も良い(1)。

先日、九州から心房細動の患者さんがアブレーション治療を希望されて受診されました。「お酒が好きだけど、飲んだ翌日には必ず心房細動の発作が起きてしまう。最近は発作が怖くて、お酒が飲めなくなった。アブレーションで心房細動を治して、また酒が飲みたい。」担当医としては「・・・・」な気持ちです。お酒はほどほどに。

焼酎を水で割り、鉄瓶に一晩つけて黒ヂョカで頂くとたまりません。
参考文献 (1) 桑原大志 若年者の発作性心房細動 日本医事新報 2013:10