2018年3月26日月曜日

ブロクの掲載場所変更のお知らせ

長年ブログをこのBloggerに掲載してまいりましたが、今後は東京ハートリズムクリニックのホームページ「院長ブログ」で更新してまいります。ますます発信回数を増やしていくつもりですので、今後共ご愛顧のほどよろしくお願いします。


2018年3月4日日曜日

リプル 心房粗動の新しい画期的マッピング方法

心房粗動という不整脈があります。心房の中に電気の通り道ができてしまい、そこをぐるぐると電気が回り続けることで不整脈が続いてしまいます。心房粗動を根本的に治療するためには、その電気的な回路を明らかにし、回路の一部にアブレーションカテーテルでブロックラインを作成しなければなりません。その回路は、比較的容易に分かる場合もありますが、心臓手術をした後に発症した心房粗動などは、心房の至る所に切開、縫合したあとや、元来の心臓弁膜症の時にできてしまったキズあとがあり、心房粗動の回路を明らかにするのが、非常に困難な場合があります。

そこで考え出されたのが、リプルというシステムです。イギリス人医師の発案で、天才的なひらめきによって作り出されました。

心臓の中の電気の流れは一様ではありません。一部の心筋では電気が流れるのに時間がかかります。従来のカルトシステムでは、一箇所の心筋には一つの興奮時間しか当てはめることしかできませんでした。しかし、心房粗動時には一箇所の心筋でゆっくりと電気が流れていきます。つまり複数の興奮時間を当てはめなければなりません。それは2次元のマップ上では表現ができなかったのです。それがカルトシステムの限界でした。リプルシステムは、一箇所の心筋の電気の流れを、バーの伸び縮みで表現したのです。それにより、心房粗動の回路の理解が非常に容易になりました。


現在では、この方法を使用すれば、いかに複雑な心房粗動でも回路が明らかにならないことはありません。 


2018年3月3日土曜日

アブレーションインデックス 推定焼灼深度


カテーテルアブレーションとは不整脈の原因となっている心筋を焼灼して、不整脈を治す治療方法です。心房細動アブレーションの焼灼部位は心房筋です。心房筋の厚さは1mm〜15mmで場所によって異なります。心筋を焼灼する際は、心筋の内側から外側まで(貫壁性)焼灼しなければなりません。なぜならば不整脈の原因は心筋壁の内側にあるのか外側にあるのかは分からないからです。

貫壁性に焼灼するために、どれくらいの力でカテーテルを心筋に押し付け、どれくらいの高周波の出力を使い、どの程度の時間高周波を流すかは、経験的に決めていました。しかし、実際にはその焼灼の程度(深さ)は目に見えるわけではないので、時には不十分な焼灼になって、不整脈を十分に治療できなかったり、逆に焼けすぎてしまい、心タンポナーデ(心臓の周囲に血液が漏れる合併症)をおこしたりしていました。

しかし、このたび、アブレーションインデックスといって、焼灼深度が推測可能なシステムができたのです。原理はこうです。焼灼深度を決定する因子で最も関与の大きい1)カテーテルを心筋に押し付ける力、2)高周波出力、3)高周波通電時間の3者のそれぞれを変えて直視下で動物の心筋を焼灼し、実際の焼灼深度を測定して、1)~3)の数字で焼灼深度を割り出す公式を作り出したのです。実際にこの公式が正しいかを動物実験で検証すると、推定焼灼深度と実際の焼灼深度はほとんど同じでした。対象となる心筋の厚さは、心腔内超音波エコーで測定可能です。

ここに来て、カルトシステムは私達の望むほとんど全てのものを創出したといっても過言ではないでしょう。当院はアブレーション専門施設なので、このシステムの正式発売の約半年前から使用開始していますが、治療確実性と安全性の向上、術時間の短縮につながっています。


アブレーションインデックス(推定焼灼深度)と実際の焼灼深度はほとんど一致しています。Nakagawa H, et al. Heart Rhythm 2013;10:S481(abstr) 

2018年2月27日火曜日

心不全を伴った心房細動の治療はカテーテルアブレーションが良い

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の効果として新たな研究結果が発表されました。New England Journal of Medicineという臨床医学の中では最も権威のある医学雑誌で、信頼性が非常に高いものです。

研究内容は心臓が収縮する能力は心駆出率というもので表されます。例えば、100ccの血液を溜め込み、70ccの血液を送り出すことができたならば、心駆出率は70%となります。正常の心駆出率は55〜75%です。この心臓の収縮能力が低下し、少しの労作でも息切れを自覚する状態を心不全と言います。心不全になると多くの患者さん(50%以上)が経過中、心房細動を合併します。一旦、心房細動を合併すると、死亡率が約2倍に上昇します。心不全の患者さんに合併した心房細動をどのように治療するかということは、長い間問題になっていました。

心房細動を伴った心駆出率が35%以下の重症心不全の患者さんを、心房細動をアブレーションで治療する179人と、薬物治療を行う184人の2群に分けて、アブレーション治療と薬物治療の優劣を競い合いました。約3年の経過観察で、死亡もしくは心不全が悪くなり入院する患者さんの割合はアブレーション群で28.5%、薬物療法群で44.6%でした。つまり、アブレーション治療をすると、死亡、入院する可能性が薬物治療の60%に減少するということです。


以上の結果より、重症心不全に合併した心房細動の治療は、薬物療法よりも、アブレーション治療の方が良い結果を生み出すということです。

Marrouche N, et al. N Engl J Med 2018;378:417-27.


2017年6月14日水曜日

リプレイ 非肺静脈由来心房細動起源の同定方法が進歩しました

スポーツの世界では、肉眼での判定が難しい時や審判員の判定に異議がある時に、ビデオ判定が導入されてきています。このビデオ判定のことを英語でリプレイもしくはチャレンジと言いますが、アブレーションの世界でもカルトシステムがリプレイ機能を開発、導入しました。

この機能を使用すると、カテーテルが心臓の中で移動した際に捉えた電位とその時のカテーテルの空間的位置を、コンピューターがすべて記録し続けます。何か重要なイベントが起きると、その時に逆戻りし、その際の電位と場所を再表示(リプレイ)できるのです。

この機能は心房細動起源の場所を同定する際に極めて有効です。心房細動は始まる直前に、短時間で心房性期外収縮が頻回に出現することがあるのです。多くの場合その全てが、同一の心房細動起源から出現しています。今までのシステムでは、それらすべてを捉えることができても、その内の一つの興奮の電位と場所しか解析できませんでした。コンピューターの記憶容量より、ある一定時間しか逆戻りできなかったのです。しかし、この最先端技術のリプレイを使用すると、複数の心房性期外収縮すべての、カテーテルの電位と場所を再表示できます。これら全部を統合し解析すると、心房性期外収縮の場所、すなわち心房細動起源の場所が詳細に判定出来るというわけです。

また、その時捉えた複数の心房性期外収縮が、すべて同一のものであるかを確認するために、それぞれの興奮の伝播様式を見比べなければなりません。カルトシステムはリプレイ機能を導入すると同時に、解析画面を2つ(デュアルモニター)にしました。モニターが2つになることで、興奮様式が詳細に観察可能となり、解析が容易かつ正確になったのです。アブレーション技術がまた一つ前進し、非肺静脈由来心房細動起源治療の成功率が更に高まってきています。
東京ハートリズムクリニックの庭の花を植え替えました。11月〜5月はパンジー、ビオラで私達の目と鼻を楽しましてくれましたが、6月〜11月はベコニアです。赤、白、ピンクの3種類です。

2017年2月19日日曜日

Z縫合 術後の安静時間が大幅に短くなりました

マジンガーZは子供の頃、私のヒーローでした。格好良くてともかく強い。その主題歌は今でも諳んじることが出来るくらいです。フェアレディーZは私の学生時代、一世を風靡したスポーツカー。流線形が美しく、特に赤の車が好きでした。Z旗は、現在は横須賀に係留されている戦艦三笠が、往時、マストに掲げ、必死の覚悟をもってロシアのバルチック艦隊に向かっていきました。Z(ゼット)には、アルファベットの最後の文字なので、これが最後、もう後が無いという意味が含まれ、強い決意を表す時に使われるようです。

カテーテルアブレーションの際は、太ももの太い静脈(大腿静脈)を通してカテーテルを心臓に持っていかなければなりません。その際、そこに直径3mm弱の穴が2、3箇所開いてしまいます。アブレーションが終わった後は、この穴を圧迫止血しますが、止血が完了するまでの6〜8時間、患者さんはベッド上で仰向けになったまま安静にしていなければなりませんでした。

この6〜8時間が辛い。同じ体勢でじっとしていると腰が痛くなります。腰に湿布を貼ったり、痛み止めを注射したりと色々な方法で対応してきました。私は今までアブレーション治療にまつわる諸問題、主に患者さんにとって苦痛なことを様々な工夫で解決してきました。しかし、この術後の安静時間だけは、止血という生体の自然な反応の結果を待たなければならないので、どうてしも短縮することが出来なかったのです。

しかし、解決方法があったのです。画期的な方法です。その名もZ縫合。太もものカテーテルを挿入した静脈の皮膚の部分をZ型に縫合すると圧迫止血が不要になるという研究報告が出たのです。当院でもこの方法を利用し、今では術後の安静時間が3時間に短縮され、5時間後にはベッド上フリー(ベッド上にいるならばどういう体勢を取っても良い)にまでなるようになりました。Z縫合がアブレーション治療の「長時間の安静時間」という問題の最後の切り札になってくると思います。

マジンガーZとZ縫合 
参考文献 
Europace (2016) 18, 1545–1550

2017年1月10日火曜日

たばこと心房細動

心房細動の患者さんの診察中に、夫の喫煙を止めさせたい奥様から、「たばこは心房細動の原因にならないのですか?」と良く質問されます。

「たばこと心房細動」その両者の関係を調べた疫学的研究が6つあります。その内2つの研究は両者に関係はないとしていますが、他の4つの研究は、喫煙は心房細動の危険因子であると指摘しています。喫煙により1.5倍心房細動を引き起こしやすくなるようです。

実験ではニコチンにより心筋に線維化が起こることも判明しました。線維化した心筋では電気がスムーズに流れなくなり、一旦始まった心房細動が続きやすくなってしまいます。これは持続性心房細動のメカニズムの一つの心房細動基質という状態です。

禁煙することで、心房細動の発症率は非喫煙者と同等になることも明らかにされています。喫煙者は平均で10年寿命は短くなりますが、30歳、40歳、50歳、60歳で禁煙すると、それぞれ、10年、9年、6年、3年、寿命を稼ぐことができます。できるだけ早期に禁煙することが重要です。


東京ハートリズムクリニックから西の方を見た風景です。
この中に小さいのですが、私の大好きな以前登ったところが写っています。