2012年4月26日木曜日

ゴミの中に宝

ゴミ。
少々、お行儀の悪い言葉ですが、不整脈治療を実施する医師が良く口にすることばです。
何がゴミか?心臓の中の、僅かに記録できるかできないか程度の小さい電位のことを指します。余り重要でないことがほとんどですが、時にそのゴミに宝が隠されていることがあります。

つい先日、アブレーションを実施した患者さん。
3年間、脈拍が120~130拍/分程度の心房粗動が続いています。実を言うと3年前に、私がその心房粗動に対してアブレーションを実施し、成功裏に終わらなかった患者さんです。抗不整脈薬も無効で、持続する心房粗動のため、心拡大が進行し、心不全兆候が出現し始めました。この3年の間にイリゲーションカテーテルという、新しいアブレーションカテーテルも使えるようになったので、もう1回治療を試みようということになりました。

心房内をくまなく調べると、心房粗動の回路が明らかとなり、そのキモとなる部位が、下記の僅か0.25mV程度のゴミ電位です。余程注意深く見ないと見過ごしてしまう電位で、おそらく心筋の奥深くから出てくる電位です。アブレーションカテーテルの先端を、そこに押し当て、通常より、高い出力で通電しました。すると通電開始から28秒後に、その心房粗動が停止し、正常の洞調律に復帰したのです。その瞬間、手術室にいた全員から歓声と拍手が沸き起こりました。医者をやっていて、全身で喜びを感じる瞬間の一つです。

何気なく見過ごしてしまうもの。その中にも治るためのヒントが隠されていることがあります。集中力がとても重要な仕事です。
(矢印の間がゴミ電位です)



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