2014年1月28日火曜日

アブレーション後に心房細動が再発したら・・

患者さんによっては、心房細動アブレーション後に、残念ながら心房細動が再発する場合があります。前回、述べたようにアブレーション術後3ヶ月以内に起きた心房細動は再発とみなさず、安静もしくは抗不整脈薬で経過を見ます。

つまり、術後3ヶ月以降に起きた心房細動を「心房細動の再発」と定義し、再治療を考慮します。その際の症状は、患者さんにより様々で、以前の心房細動より、発作頻度、持続時間が随分短く、軽い場合や、稀ですが、逆に程度や頻度が悪化する場合もあります。

アブレーション後の心房細動再発の原因には、次の二つの可能性があります。(1)初回に治療した肺静脈の電気的伝導が再開し、肺静脈内の心房細動起源により、心房細動が起きている、(2)初回に治療した部位はすべて治癒しているが、取り残した心房細動起源、もしくは経過により新たに出現した心房細動起源により心房細動が起きているです。この二つの内のどちらかであるかは、カテーテルを心臓の中に入れてみないと分かりません。しかし、頻度としては、(1)が圧倒的に多いのです。

肺静脈の再伝導部位は通常1カ所もしくは数か所のことがほとんどですので、治療は容易です。つまり心房細動の再発の原因の多くは、上記(1)であり、治療は容易なので、再発した方には、原則として2回目のアブレーション治療をお勧めしています。
先日、北海道名寄市立総合病院にアブレーションを施行しに行きました。現地の気温は-20℃、横須賀の気温は4℃・・。日本は広い。

2014年1月26日日曜日

心房細動カテーテルアブレーション術後急性期注意事項について

心房細動アブレーションの際は、ほとんどの患者さんで肺静脈入口部を焼灼します。私が気に入っているイリゲーションカテーテルを用いると、左右肺静脈と上大静脈の隔離のために要する焼灼時間は合計で約38分です。その通電時間に相当する火傷が心臓に発生します。

どなたでも、1度や2度は、皮膚の火傷を経験したことがあると思います。通常、火傷をした部位は、赤く腫れあがり、ヒリヒリして、痛みを自覚します。火傷の程度にもよりますが、しばらくすると炎症による体液が滲み出てきます。

それと同じことが、心臓の中でも起こるのです。アブレーション時に焼灼した心筋は、火傷で膨れ上がります。その影響により、アブレーション当日や翌日は37℃程度の微熱が出るくらいです。しばらくすると、その火傷した部位から炎症性の物質が放出され、その刺激によって、焼灼をまぬがれた心房筋から、心房細動が引き起こることがあるのです。

以前のデータですが、私が調べた所、慢性心房細動の患者さんの場合は特に多く、約3割の方で、アブレーション後1~3ヶ月以内に心房細動を発症しています。しかし、その多くの人で、その心房細動は次第に落ち着いてきます。そのために、学会のガイドラインにも、「術後3ヶ月位内に発症した心房細動は、急性期一過性の心房細動の可能性もあり、心房細動の再発とはしない」と記載されています。たとえ、アブレーション直後に心房細動が発症しても、次第に落ち着いてくることは、良く経験されるので、気落ちせずに担当医に相談して下さい。

横須賀共済病院 A棟10階からの眺めです。中央やや左手に、東京湾唯一の自然島「猿島」が見え、その先に房総半島が見えます。晴れた日には、青い東京湾全体が見渡せます。

2014年1月15日水曜日

伝家の宝刀

以前、名刀正宗のお話をしました。カテーテル先端から生理食塩水を噴射しながら、高周波通電するイリゲーションカテーテルで、その噴射孔が56個あるものです。切れ味が抜群で、尚且つ、しっかりと考えて使えば、安全性も高く、とても気に入っています。

しかし、その後、米国で開催される世界で最も権威のある不整脈学会で、「このアブレーションカテーテルは合併症を多く引き起こす」と報告され、その場で、発表を聞いていた私は全く同意できませんでした。

私と同じように考えている医師はいるもので、最近、このアブレーションカテーテルの有効性と安全性を証明する論文が2つ発表されました。一つの論文では、106人の患者さんを、6穴(従来型)もしくは56穴(名刀正宗)のアブレーションカテーテルを使用する群に均等に分けて、心房細動治療をしたところ、56穴のカテーテルを使用した患者さんの方が、急性期の肺静脈隔離維持率が有意に高い(90.5% VS 95.2%)と報告されました(1)。もう一つの論文では、160人の患者さんを、やはり同じように、2つのカテーテル治療群に均等に分けたところ、56穴のカテーテル群の方で、肺静脈隔離に要する時間が有意に短い(35.4分 VS 39.9分)と報告されました(2)。また、2つの論文ともに、どちらのカテーテルを使用しても合併症率は変わらないというものでした。

簡単に言うと、このカテーテルを使用すると、より早く、より確実に肺静脈隔離をすることができるということです。施行する医師により好みは別れるかもしれませんが、今考えられる中で最高の刀だと思います。

この写真をクリックするとイリゲーションカテーテルが生理食塩水を噴射している動画に移動します。


参考文献
(1)Bertaglia E J Cardiovasc Electrophysiol. 2013;24:269–273. 
(2)Park C-I, . J Cardiovasc Electrophysiol. 2013;24:1328–1335. 

2014年1月3日金曜日

非肺静脈由来の心房細動起源の治療 ちょっとマニアックな話題です

このブログは、カテーテルアブレーションの実際を一般の人にも分かりやすいようにと、専門用語を可能な限り排除して、平易な言葉で書いているつもりです。そのために、理解が容易で、同業の人達にも好評です。そこで、今日は多少マニアックですが、その方々からリクエストのあった非肺静脈由来(肺静脈以外の部位に由来する)の心房細動起源の治療の仕方についてご説明いたします。

まずは、イソプロテレノールとい薬を用い、心房細動を誘発します。そして、まさに心房細動が発症した瞬間に記録できた電気興奮から、それがどこから発生して来るかというのを推測します。その対象となる心房細動起源の電位の特徴は、1)他の部位に比較し、著しく早期に興奮する、2)局所電位高が小さい、3)その興奮初期において、他の電位より短い間隔で興奮するです。この特徴を有した電位を捕捉するコツは1)非肺静脈由来の心房細動起源の好発部位にマッピングカテーテルを、予め置いておく、2)記録された電気興奮の中に、起源とおぼしき電位がない場合は、心房内に置いたカテーテル電極の興奮順序、パターンより、最早期興奮部位(心房細動起源)を推測することです。

実際には1回の心房細動の誘発でその起源が分かることは稀です。不明であれば、電気ショックで一旦心房細動を停止させて、上記行為を繰り返さなければなりません。そして、探しだした心房細動起源の一例が下図の矢印で示す電位です。この様なところに、アブレーションカテーテルを持って行き、高周波通電することで、心房細動起源を各個撃破するのです。


この様な手技は、熟練を要するものです。実際のターゲットは下図に示す様に、つい見逃してしまうような極めて小さい電位です。そのために、注意深い観察が必要です。

赤い矢印の部分が非肺静脈由来の心房細動起源です。余りにも小さい電位なので、つい見逃していしまいそうです。

2014年1月2日木曜日

発作性心房細動 薬物治療かカテーテルアブレーション治療か

発作性心房細動を治療する際に、薬物治療が良いのか、カテーテルアブレーション治療が良いのか。日本循環器学会のガイドラインでは、薬物抵抗性の発作性心房細動に対しては、年間アブレーション実施数が50例以上の施設で行うならば、カテーテルアブレーション治療はクラスⅠ(実施したほうが有益)の適応があるとしています。

薬物抵抗性発作性心房細動に対して、投与している薬を他の薬に変更するか、もしくはカテーテルアブレーション治療を行い、1年後に、どちらの治療が、患者さんの発作性心房細動を上手にコントロールできたかということを調査した研究が8つあります。

結果は下図です。横軸は8つの研究、縦軸が1年後に洞調律を維持している患者さんの割合で、青がカテーテルアブレーション、赤が薬を表します。8つの試験それぞれで結果は異なりますが、平均すると、1年後の洞調律維持率はカテーテルアブレーションが80%、薬が30%です。明らかにカテーテルアブレーション治療の方が洞調律維持率は高いという結果です。この結果は、十分に納得できる成績であり、また上記の8つの研究が行われた施設は、アブレーション実施数が多い施設です。そのため、ガイドラインで、年間アブレーション症例数がある程度多い施設で実施するならば、カテーテルアブレーション治療は薬剤抵抗性の発作性心房細動患者さんにクラスⅠの適応があるとなった訳です。

タイトルの答えですが、発作性心房細動に対しては、まず薬物治療を試し、それで効果がないようならば、カテーテルアブレーション治療の適応があるということになります。しかし、最近では、第一選択として、薬ではなく、カテーテルアブレーション治療を選択しても良いのではないかという研究も行われるようになりました。その結果はまた後日。
縦軸は治療開始1年後の洞調律維持率、横軸が8つの試験、青がカテーテルアブレーション、赤が薬物治療を表します(1)。 
参考文献 (1)Tung R et al. Circulation 2012;126:223-229