2016年6月28日火曜日

クライオアブレーションか高周波アブレーションか? 大規模臨床試験の結果

クライオバルーンアブレーションと高周波カテーテルアブレーションの、心房細動の治療成績を比較する無作為試験が、ヨーロッパで行われました。非常に質の高い、しっかりとした試験です。

結果は両者とも治療成績は同じでした。発作性心房細動患者にアブレーションを実施し、1年後に洞調律(正常の脈拍)を維持出来た人は、どちらの方法を用いても65%です(下グラフ)。

「65%とは低い成功率」だと思われるかもしれません。
これは、どちらの治療方法を用いようが、肺静脈隔離術しか行っていないからだと思われます。よってこの試験は、2つの治療方法の「心房細動の治療効果」を比較するのではなく、「肺静脈隔離ができたかどうか」を比較する試験と言えます。

心房細動の85%は、肺静脈から起こりますが、15%は肺静脈以外のところからも発生します。後者の患者さんは、そこを治療(各個撃破)しないと、心房細動は治りません。これは、高周波カテーテルアブレーションを使用しないと出来ません。

この各個撃破の治療を行うには、相応の技術が必要です。故に、技量の高い術者が施行するならば、高周波カテーテルアブレーションを使用した方が、心房細動の治癒率は高いと思います。

それと、患者さんには関係のないことかもしれませんが、クライオバルーンアブレーションばかりしていると、後継者が育ちません。高周波カテーテルを用いて、肺静脈隔離術ができないような医師が、肺静脈以外の心房細動起源を治療できるとは思えません。
縦軸は心房細動が再発した人の割合、横軸はアブレーション後の日数です。RFCが高周波カテーテルアブレーションのことで、Cryoballoonとはクライオバルーのことです。
参考文献N Engl J Med 2016; 374:2235-2245


2016年6月20日月曜日

クライオバルーンかホットバルーンか?

今年、ホットバルンアブレーションの認可がおりました。葉山ハートセンターの佐竹先生が、それこそ、心血を注いで開発されたものです。横須賀共済病院は、発売前からこのホットバルーンアブレーションの治験に参加し、私もたくさんの使用経験があります。

基本的な原理はクライオバルーンと同様で、心房細動起源の巣窟である肺静脈隔離を行います。クライオバルーンには液体窒素を入れますが、ホットバルーンは、造影剤と生理食塩水を入れて、それを温めて使用します。バルーンの温度は約80℃に上昇し、接触した心筋が温熱壊死します。
 
日本で行われた治験では、発作性心房細動患者さんに対して、ホットバルーンアブレーションを行うと、手術250日後に、心房細動が再発せず、正常脈拍を維持できる人は約60%です。主な合併症は肺静脈狭窄で、5%の患者さんに発症しています。クライオバルーンの肺静脈狭窄の頻度は、これより少ないのですが、横隔膜麻痺はクライオバルーンアブレーションの方が多くなります。

なお、クライオバルーンは大きさが一定ですが、ホットバルーンは入れる液体の量とバルーンを押す力により、大きさを自由に変形させることができます。肺静脈の直径や形は、個人により様々ですので、これは、ホットバルーンの優れた点です。この優越点を十分に活用すると、肺静脈隔離以外に、左心房の後壁も治療できる可能性があります。左心房の後壁は、心房細動起源が多く存在する場所です。将来性のある、治療機器です。

ホットバルーンの利点は、バルーンの形を自由に変えることが出来ることです。上の写真は、ホットバルーンの形を変えて、左心房の後壁を隔離している様子です。
出典 J Cardiovasc Electrophysiol. 2015;12:1298-306 

2016年6月13日月曜日

競馬と心房細動 ー大きい心臓は心房細動になりやすいー

心房細動中の心臓内の電気的興奮状態はカオス(混沌)と表現されます。簡単に言うと、心房細動中は、「無茶苦茶」「てんでバラバラ」に電気が心房内で興奮しているということです。

例えると、学校の昼休みに、運動場で子供たちが自由気ままに遊び回るようなものです。全体としての統制は全くとれていない。しかし、動き回るためには、ある程度の広さの運動場が必要です。運動場がたたみ一畳ほどの大きさしかなければ、動きまわりようがありません。

心房細動も同じです。電気が心房の中を自由勝手に動き回るためには、ある程度の広さの心房が必要となります。日本人よりも西洋人の方が、体も大きく、心臓も大きいので、心房細動になりやすい。

馬の心臓も大きい。競走馬ならば、激しい運動もします。競走馬保健衛生年報によると、毎年10〜50頭の馬が、心房細動と診断されています。その内レース中に発症している馬は20〜25頭です。競馬中に、突然失速する馬がいますが、その原因のほとんどは、発作性心房細動を発症したことだそうです。

私はブラタモリの大ファンです。ついに、ブラタモリが横須賀にやって来ました。6月18日、放送予定です。皆さん見て下さいね。