2014年1月2日木曜日

発作性心房細動 薬物治療かカテーテルアブレーション治療か

発作性心房細動を治療する際に、薬物治療が良いのか、カテーテルアブレーション治療が良いのか。日本循環器学会のガイドラインでは、薬物抵抗性の発作性心房細動に対しては、年間アブレーション実施数が50例以上の施設で行うならば、カテーテルアブレーション治療はクラスⅠ(実施したほうが有益)の適応があるとしています。

薬物抵抗性発作性心房細動に対して、投与している薬を他の薬に変更するか、もしくはカテーテルアブレーション治療を行い、1年後に、どちらの治療が、患者さんの発作性心房細動を上手にコントロールできたかということを調査した研究が8つあります。

結果は下図です。横軸は8つの研究、縦軸が1年後に洞調律を維持している患者さんの割合で、青がカテーテルアブレーション、赤が薬を表します。8つの試験それぞれで結果は異なりますが、平均すると、1年後の洞調律維持率はカテーテルアブレーションが80%、薬が30%です。明らかにカテーテルアブレーション治療の方が洞調律維持率は高いという結果です。この結果は、十分に納得できる成績であり、また上記の8つの研究が行われた施設は、アブレーション実施数が多い施設です。そのため、ガイドラインで、年間アブレーション症例数がある程度多い施設で実施するならば、カテーテルアブレーション治療は薬剤抵抗性の発作性心房細動患者さんにクラスⅠの適応があるとなった訳です。

タイトルの答えですが、発作性心房細動に対しては、まず薬物治療を試し、それで効果がないようならば、カテーテルアブレーション治療の適応があるということになります。しかし、最近では、第一選択として、薬ではなく、カテーテルアブレーション治療を選択しても良いのではないかという研究も行われるようになりました。その結果はまた後日。
縦軸は治療開始1年後の洞調律維持率、横軸が8つの試験、青がカテーテルアブレーション、赤が薬物治療を表します(1)。 
参考文献 (1)Tung R et al. Circulation 2012;126:223-229

2013年12月25日水曜日

心房中隔穿刺 手技の実際 ビデオです。

心房細動アブレーションに伴う合併症の一つである心タンポナーデ(心臓に小さい穴が開き、血液が心臓外に漏れ出す)の多くは、心房中隔穿刺を起因としています。

そのために、私は心腔内エコーを用いて、しっかりと心房中隔を確認しながら、穿刺する方法が安全だと考えています。しかし、この方法が安全だと学会や研究会等で発表しても、他の医師から、心腔内エコーで心房中隔を描出する方法が難しいと、頻繁に言われます。

当院では、全国に先駆けて本法を導入し、色々な工夫を凝らして、今ではこの方法は完全に確立した方法となっています。心房中隔の描出方法等の当院での工夫を紹介する為に、ある企業が紹介ビデオを作成してくれました。

患者さんには、実際の手技の様子をご覧いただき、医師には本法を日常手技の参考にしていただければ嬉しく思います。
上記をクリックするとYou tubeにリンクされた動画を見ることができます。

2013年12月23日月曜日

持続性心房細動の治療 薬物治療かカテーテルアブレーションか?

前々回の続きの話です。持続性心房細動を薬物で治療する際には、心拍数調節治療もリズムコントロール治療も、死亡率という観点からは、ほぼ同等の効果と申し上げました。それでは、薬物治療とカテーテルアブレーション治療を比較するとどうなのか。

最近になってやっと、持続性心房細動に対する、薬物治療とカテーテルアブレーション治療の、2つの無作為比較試験の結果が発表になりました。

一つの試験では、52人の患者さんをカテーテルアブレーション治療群と薬物治療群(心拍数調節治療)に均等に分けて、1年後に臨床効果を評価しました。カテーテルアブレーション治療を受けた患者さんは88%(複数回のアブレーション治療実施)で洞調律が維持され、また、カテーテルアブレーション治療群が、薬物治療群よりも、全身身体能力(最大酸素消費量)や生活の質の点で良好な値を示し、より低いBNP(心臓から分泌されるホルモン)値を示しました。もう一つは、患者さんをカテーテルアブレーション治療群と薬物治療群(リズムコントロール治療)に分けて、単純に12ヶ月後の洞調律維持率を比較したものですが、カテーテルアブレーション治療群では60.2%、薬物治療群では29.2%の患者さんが洞調律を維持していました。

2つの研究ともに、持続性心房細動に対して、薬物治療を実施するよりも、カテーテルアブレーション治療を実施したほうが、洞調律維持率は勿論のことと、それにより良好な臨床効果ももたらされることが明らかとなりました。
カテーテルアブレーション治療群の方が、薬物治療群よりも1年後の洞調律維持率が高くなっています。文献 (2)より


参考文献 
(1)Jones DG, et al. JACC 2013;61:1894
(2) Mont L, et al. SARA study. European Heart Journal, in  press

途中経過報告 非侵襲的人口呼吸器を使用し始めて4か月

心房細動アブレーションを施行する際に、以前お話した非侵襲的人工呼吸器を使用しはじめて4ヶ月が経ちました。現在までの同方法に対する患者さんの評価をお知らせ致します。

本方法を施行したほとんど、というか全員が、「術中の事はまったく記憶にない。気がついたら帰室していました。痛みは全然自覚しなかった。楽でした。」と言われています。

極めて良好な反応です。術者にとっても、痛みによる体動や、呼吸による心臓の動きが減り、術時間は2時間半が2時間20分と僅か10分間程度短くなっただけですが、術者にかかるストレスは、10分の1にまで軽減しているといっても過言ではありません。必ずや成功率向上にも寄与すると思います。

アブレーションを施行する際に、この方法を用いた群と用いない群の2群に無作為に分けて、本方法の利点を明らかにし、論文にしなければ、この方法は世界に広がっていかないのです。しかし、今となっては、本方法を用いない昔の方法に戻れない。何とかして、有効性を証明できる方法を模索中です。
当院で用いている方法とは少し違いますが、人工呼吸器を装着し、全身麻酔を実施し、手術を行ったGeneral Anesthesia群と、人工呼吸器を使用しない鎮静のみのConscious Sedation群では術後のアブレーション成功率は、人工呼吸器を使用した群の方が良好な成績です。参考文献(1)より。

参考文献 (1)DIBiase L, et al. Heart Rhythm.2011;8:368–372.

2013年12月22日日曜日

持続性心房細動の薬物療法 心拍数調節治療とリズム調節治療

本日はアブレーションの話ではありあません。心房細動、もっぱら持続性心房細動の薬物治療についてご説明します。以前は、持続性心房細動になってしまったならば、電気ショックや抗不整脈薬を使って、何とか元の正常の脈拍に戻すことが最良と信じられていました。

そこで、2000年前後に、本当に正常の脈拍に戻す治療が、患者さんにとって有益、つまりは死亡率を下げることにつながるのかどうかという研究が行われたのです。循環器医師の間ではとても有名な「AFFIRM(アファーム)試験」です。合計で4060人の患者さんを、心房細動のまま、安静時の心拍数を80拍/分以下に維持する「心拍数調節治療群」2027人と、抗不整脈薬や電気ショックで正常の脈拍に戻そうとする「リズムコントロール治療群」2033人に分けて5年間経過観察しました。経過中、心拍数調節治療群で310人の方が、リズムコントロール治療群で356人の方が亡くなり、死亡率には両群間で統計学的な差はなかったのです。それどころか、どちらかというと、一生懸命、正常の脈拍に戻そうとしたリズムコントロール群の方で死亡率が高い傾向にありました(1)。以前、信じられていたこととは逆の結果だったのです。

それからというもの、正しい結果が、以前信じられていたものと逆だったという反動も手伝い、持続性心房細動は、無理して正常の脈拍にもどさずに、心拍数調節治療で構わないのだという考えが急速に広がったのです。しかし、患者さんがいくら動悸症状を医師に訴えても、「心拍数調節治療をおこなっていれば、心房細動のままでも死亡率は悪くならないから、大丈夫です。」と言われ、心房細動のまま放置されることが日常臨床で頻繁に起こり、患者さんの生活の質(QOL)がないがしろにされることが起こり始めたのです。

この研究は、持続性心房細動の治療において、薬と薬の競争であって。薬とアブレーション治療の競争ではないのです。この結果をもってして、持続性心房細動は心拍数調節治療を行っていれば、放おっていおいても大丈夫ということにはならないのです。この続きは後日お話します。
Rhythm control(リズムコントロール治療群)とRate control (心拍数調節治療群)とでは5年間の経過観察で死亡率に統計学的な差はありません。参考文献 (1)より。

参考文献 (1) Wyse DG, et al. N Engl J Med. 2002;347:1825–1833. 

2013年12月21日土曜日

ワルファリンとダビガトラン

心房細動の脳梗塞予防のために、ワルファリンに代わる新規抗凝固薬という薬があります。以前、お話したダビガトランという薬がそうです。ワルファリンと違い、「納豆をたべてはダメ」などという食事制限が不要なので、内服管理が簡単です。最近では、ダビガトランに加え、イグザレルト、エリキュースと次々に新薬が発売されています。

ワルファリンを中止するよりも、ワルファリンを内服しながらアブレーションを実施した方が、手術による脳梗塞の合併が少なくなります(1)。術中にワルファリンによる抗凝固状態(血液サラサラ状態)を維持したままアブレーションを実施する方が、脳梗塞の予防効果があるというこです。また、術中にもし出血性の合併症が発症しても、PPSBというワルファリンの効果を中和する薬を投与することで、抗凝固状態は急速に消失し、止血は容易です。しかし、ダビガトランには、中和薬がないのです。術中に大出血を来たしたならば、止血が非常に困難になります。少しでも術中でのダビガトランの効果を減らすために、アブレーション当日の朝は、内服を中止しています。しかし、その分、抗凝固作用も薄れることになり、脳梗塞予防という観点からは不利になるということです。

最近、ワルファリンとダビガトランの、心房細動アブレーション脳梗塞合併率を比較した10の研究のメタ解析が発表されました。それによると、ワルファリン内服患者2356人中4人(0.2%)、ダビガトラン内服患者1501人中10人(0.7%)に術関連の血栓塞栓症が発症し、ダビガトランの方が発症率が高くなっています(下図)(2)。

当院に、紹介されてくる患者さんの中にも、上記新規抗凝固薬を投与されている患者さんがいらっしゃいます。面倒でも、当院ではアブレーションを実施する前に、新規抗凝固薬からワルファリンに変更し、ワルファリンを内服したままアブレーションを施行しております。ワルファリンを内服したままアブレーション実施したほうが安全だと思からです。
ワルファリンの方がダビガトランに比べ、術関連の血栓塞栓症の発症は少ないという結果です。参考文献 (2)より。
参考文献 

心房細動アブレーションの食道合併症

カテーテルアブレーションを実施すると良いことばかりが起こる訳ではありません。体の中に異物を挿入して、心筋を焼灼するので、患者さんにとって不都合なことも起こりうるのです。それが合併症です。

心房細動アブレーションする際に避けて通れない合併症の一つに食道障害があります。多くの患者さんで、食道は心臓の真後ろを通っているために、肺静脈隔離術を施行する際に、どうしても食道上の心房筋を数箇所焼灼せざるを得ないのです。高周波で発生した熱は、心臓だけにとどまってくれる訳ではありません。周りの臓器の食道にも伝わります。その際に食道は、食道粘膜上での測定で40℃以上の高熱に一過性にさらされるので、食道に火傷ができてしまうのです。

下図が当院でアブレーション実施た患者さんに発生した、食道内視鏡で確認された食道障害の様子です。10~20%の程度で軽度の食道炎が発症してしまいます。

食道障害を起こさないようにするために、食道温度をモニターしながらアブレーションを実施し、食道温度が上昇したならば、高周波の通電を止めています。また食道の近くでアブレーションを実施する際には、高周波の出力も下げています。そうすることで、食道障害の発生を低くすることができますが、どのように工夫しても10~20%程度は軽度の食道炎が発症してしまうのです(1)。アブレーション術後は、食道炎治療薬としてプロトンポンプインヒビターを内服して頂き、1ヶ月程度は、食道粘膜を刺激するようなアルコールや熱いものの飲食を控えて頂いています。軽度の食道炎は、数週間後には治癒しています。下図の患者さんすべてで、2~3週間後に実施した内視鏡検査で食道炎は消えていました。


軽度の食道炎の状態です
参考文献 (1) Kuwahara, T et al. Europace, in press