2013年12月14日土曜日

高齢者のカテーテルアブレーション。カテーテルアブレーションに年齢制限はあるのか?

患者さんからよく受ける質問です。「カテーテルアブレーションは何歳まで実施可能ですか?」アメリカの施設から発表された論文によると、80歳以上の人と、80歳未満の人では、心房細動カテーテルアブレーションの成功率、合併症率は全く変わりませんでした。

当院でも以前、75歳以上の患者さんの105人を調べた所、手術成功率は93%、合併症は心タンポナーデが1例発症したのみでした(1)。その心タンポナーデの患者さんも、心嚢ドレナージを実施すると出血はすぐに停止し、予定より2日入院期間が伸びましたが、元気に退院されています。

自覚症状のある心房細動患者さんに、アブレーションの年齢制限はありません。アブレーションにより、自覚症状は消失もしくは軽減しますので、アブレーションを実施するメリットは明らかです。では、自覚症状の無い、あるいは乏しい高齢の心房細動患者さんはどうなのか。

カテーテルアブレーションを実施したことによる脳梗塞予防効果は数年で現れきます。つまり、アブレーションを実施していない心房細動患者さんに比べ、アブレーションを実施した心房細動患者さんの方が、脳梗塞発症率が低いという差が明らかとなってくるのが、アブレーション実施数年後という意味です。平成22年の厚生労働省の発表によると、平均余命は80歳の方で男性8.6年、女性11.6年、90歳の方で男性4.4年、女性5.8年でした。脳梗塞予防効果発現年数とこの平均余命を考慮すると、自覚症状の無いもしくは乏しい90歳の方でも、心房細動アブレーションによる脳梗塞予防効果の恩恵を被ることができる計算になります。しかし、実際には年齢だけでは、片付けられない他のリスクもあるので、お悩みのご高齢の方は是非当院にお越しいただき、診察をお受け下さい。
アメリカの施設から発表されたデータです。Group 1 (80歳以上)とGroup 2 (80歳未満)では、手術成功率に変わりありません。
参考文献 (1) Kuwahara T, et al. Japanese Journal of Electrocardiography 2011;31:3








2013年10月8日火曜日

心房細動に対してカテーテルアブレーション治療を実施すると、脳梗塞予防効果があります

今まで何度も書いてきましたが、心房細動は脳梗塞の危険因子です。心房細動患者さんの脳梗塞発症率は1年間に平均5%で、心房細動のない人の2~7倍高い。脳梗塞急性期医療の研究によれば、発症後7日以内に入院した脳梗塞患者さんの20.8%に心房細動を合併していました。心房細動と脳梗塞は密接に関係があるのです。

心房細動カテーテルアブレーション治療は、心房細動を根治させる治療方法ですので、脳梗塞の予防につながることは予想されていました。このことに関して、最近、大規模でかなりクオリティーの高い研究結果が発表になりました。

米国で実施された研究です。アブレーション治療を実施された心房細動患者さんが4212人、アブレーションを実施されていない心房細動患者さんが16848人、心房細動のない通常の人が16848人参加しました。この人達の経過を追ったところ、アブレーション治療を実施されていない心房細動患者さんの脳梗塞発症率が最も高く、アブレーションを実施された患者さんは、通常の人々と同等の脳梗塞発症率だったのです。しかも、CHADS2スコア(脳梗塞になりやすさのリスク)に関わらず、脳梗塞予防効果が認められました。つまりは、元々脳梗塞になりにくいと考えられた若年者の心房細動の患者さんでも、アブレーション治療を実施することで脳梗塞予防効果があったということです。

時とともに多くのエビデンス(証拠)が蓄積され、カテーテルアブレーション治療が更に認知されてきています。最近、多くの若年者の心房細動患者さんが紹介されてきて、そのほとんどの患者さんが治療後に大変喜ばれています。
アブレーション治療はCHADS2スコアに関わらず脳梗塞予防効果があることを示しています。参考文献 Heart Rhythm2013;10:1272–1277 




2013年8月29日木曜日

ダビガトランの適応

心房細動を持っていると、正常の脈拍の人に比べて、脳梗塞の発症率は2~7倍に上昇します。それ予防するために、このブログでも以前書いたワルファリンという薬を内服すると、脳梗塞の発症率を60%減らすことができます。

最近、次々にワルファリンに代わる抗血栓薬が開発されています。中でもダビガトランという薬は、ワルファリンと比較した臨床試験の結果では、ワルファリンよりも脳梗塞の発症率を下げることができて、尚且つ、出血等の副作用も減らすことができたのです。また、ワルファリン内服の際には、納豆を食べれないなどの食事制限がありましたが、ダビガトランにはそれがない。

しかし、良いことばかりではありません。ダビガトランは値段が高いのです。ワルファリンは1㎎で9.6円ですので、一日当たり3㎎内服するとして、28.8円/日です。しかし、ダビガトランは75㎎が132.6円、110㎎が232.7円ですので、一日220㎎~300㎎内服する場合、465.4~530.4円/日かかるのです。実にコストはワルファリンの16~18倍。

心房細動患者さんの、ワルファリンやダビガトランの内服適応基準は、患者さんが幾つの脳梗塞発症リスクを持ち合わているかによって決まります。ダビガトランは、出血の副作用も少ないので、脳梗塞発症の可能性が低い若年者でも、内服したほうが得なことがあります。ワルファリンではそのような患者さんでは、副作用を考慮すると、内服の適応はありませんでした。例えば50歳の高血圧を持ち合わせた心房細動患者さん。ワルファリンの場合は、内服は勧められませんでしたが、ダビガトランの場合は、適応ありとなりました。
商品名をプラザキサといいます

2013年8月28日水曜日

手の感覚

不整脈の原因となっている心筋を焼灼するには、カテーテルの先端を心筋に押し当て、高周波の電気を流さなければなりません。この時の、カテーテルの押し当て具合で、心筋の焼き具合が変わってきます。当て方が弱いと、上手く焼けず、不整脈は治らない。当てすぎると、心筋が焼けすぎ、もしくは、心筋に穴が開いて、合併症を引き起こします。この力加減は術者次第です。そのために、上手な術者とそうでない術者が存在することになります。勿論、経験数により、この力加減の駆け引きは上手くなっていきます。

最近、コンタクトフォースアブレーションカテーテルというのが、発売されました。カテーテル先端に圧センサーが付いていて、今、どのくらいの力で、心筋に接触しているかというのが、分かる様になったのです。このカテーテルを使用すると、当たり加減が、術者の手の感覚ではなく、数字でコンピューター上に表示されます。

しかし、カテーテル先端に色々なセンサーを詰め込み過ぎたため、まだカテーテルの操作性が十分に洗練されておらず、スムーズな動きを示すというところまでは、行っていません。最初、私も珍しがって、使用しましたが、結果的に手技時間が延長してしまい、先に述べた、名刀「正宗」に戻ってしまいます。

しかし、技術は徐々に改善され、このカテーテルの操作性もその内改善されていくものと思われます。

カテーテルの先端が曲がっているのが、分かると思います。この部位で先端の圧を感じています。

2013年8月27日火曜日

カテーテルアブレーションは痛いか?

カテーテルアブレーションとは、カテーテル先端電極を心筋に接触させ、そこから高周波の電気を流し、不整脈の原因となっている心筋を焼灼する治療方法です。焼灼する心筋内膜には、痛みを自覚する神経は分布していませんが、焼灼によって生じた熱が、心外膜に到達し、鋭い痛みを自覚します。そのため、アブレーション中は痛みを消失させるような、静脈麻酔を使用しています。しかし、完全に痛みをとるために、静脈麻酔を十分投与すると、呼吸が止まってしまうという弊害が起きてしまう人もいるのです。そういう人では、麻酔の量をを少なくせざるを得ません。しかし、その場合は痛みも完全にとることができず、患者さんには多少の痛みは我慢していただいていました。

痛みを完全にとるためには、全身麻酔という方法が最も確実です。しかし、昨今、麻酔科医が不足し、カテーテルアブレーションに人員を割くだけの余裕がありません。そこで、最近開発された非侵襲的陽圧換気(NIPPV)という方法を利用し始めました。これは、気管挿管といって、直径が1cmくらいの管を、気管支に挿入しなくても、鼻と口をピッタリ覆うようなマスクを装着することで、呼吸が停止しても、肺に強制的に空気を送る機械です。

意識と痛みが完全に無くなるまで、静脈麻酔を投与しても、この非侵襲的陽圧換気を行うと、呼吸は停止しません。患者さんには「寝ている間に、アブレーションが終わってとても楽だった。」とても好評で、アブレーションを実施する医師にとっても、患者さんの痛みに伴う体動がなくなり、呼吸も停止せず、ストレスが減少し、手技時間が短縮します。おそらく、成功率向上にも寄与すると思われます。

私達はこの方法を2013年8月から導入しました。もう患者さんに「アブレーションは痛くて、辛かった。」とは言わさずに済むと思います。
左側の小さい機械が非侵襲的陽圧換気を行う機械です。チューブが1本患者さんに伸びて、呼吸を管理しています。

2012年10月29日月曜日

名刀 正宗

カテーテルアブレーションとは、カテーテル先端を心筋に接触させて、高周波の電流を流し、心筋を焼灼して、不整脈を治療することです。焼灼中にカテーテル先端が、60℃以上になると、周りに流れている血液が、カテーテル先端に凝固付着します。その血液の塊が、剥がれて、血流によって運ばれ、脳血管を閉塞すると、脳梗塞を合併してしまいます。

そのため、アブレーションカテーテルには、安全機構が付いており、カテーテル先端が50~55℃になると、自動的に出力が制限され、先端温度がそれ以上にならないようになっています。しかし、焼灼中にその温度に到達し、出力が制限され、心筋が十分に焼灼できないことがしばしばありました。

そこで、イリゲーションカテーテルといって、カテーテル先端の6個の小さい孔から少量の生理食塩水を噴射し、カテーテル先端を冷却しながら通電するものが開発されたのです。しかし、それでも、カテーテル先端の温度が上昇し、十分に出力がでなかったり、また、アブレーション中に総計で1リットル近くの生理食塩水が体に入るため、心機能の低下した患者さんでは、心不全を合併したりしていました。

今年になり、先端の孔がなんと56個もあるものが開発されました。そのため、より少量の生理食塩水でもカテーテル先端が、十分に冷却され、使用する生理食塩水の合計も約半分で済むようになりました。心筋内のすべての領域で、こちらが思う通りの、出力を安全に出せるようになったのです。私自身アブレーション治療を始めて、17年になりますが、やっと名刀「正宗」を手に入れた気分です。
アブレーションカテーテル先端に56個の小さい孔があいています。今日の段階でまだ正式に発売はされていませんが、当院では先行して、使用させていただいています。すばらしいカテーテルです。

2012年9月5日水曜日

ライプチヒ

数年前にある企業の招待で、ドイツのライプチヒ大学にアブレーション治療の見学に行きました。その大学はドイツの不整脈治療の中核をなす病院で、ドイツ人のアブレーション技術は如何なものかと興味津津でした。

しかし、改めて日本人の手先の器用さを再認識することになりました。使える道具は別として、カテーテルさばきは日本人医師の方が断然、格段に上手い。

しかし、残念なことに使える道具はドイツの方が数年先を行っています。勿論、日本でも同様の技術は持ち合わせていますが、霞が関という堅物のせいで、良い物を作っても実際に使用可能となるのには、途方もない時間がかかります。

その際、ライプチヒで食道温度センサーという良い物を見つけました。以前から心房細動アブレーションに伴う食道障害を予防するために、食道温度は測定していましたが、もう一人の医師がつきっきりで食道温度を測定しなけらばならす、その医師の放射線被曝は相当なものになっていました。見つけた食道温度センサーは同時に3箇所で食道温度が測定可能で、尚且つ、3D画像に表示することもできるので、焼灼部位と食道の距離も一目瞭然で、合併症予防に非常に有益です。個人輸入して使用しましたが、1本がなんと8万円。保険請求できないので、すべて病院が自腹を切ってくれていました。それがなんと、最近になり、日本でも保険請求ができるようになり、どこの病院でも使用可能となったのです。少しずつですが、確実にアブレーション環境は改善してきています。
同時に3箇所で食道温度が測定可能なセンサーです。