2013年12月19日木曜日

心筋を焼灼するということは・・。動画です。

カテーテルアブレーションとは、不整脈の発生起源もしくは原因回路の一部を焼灼し、不整脈を停止させる治療です。では実際にはどの様に焼灼しているのか。

カテーテル先端を標的心筋に接触させ、背中に当てた大きな対極板に向けて、高周波の電気を流します。そうすると、心筋に接しているカテーテル先端の面積は小さいので、電流密度の高い電気が心筋に流れる。その際に、カテーテルに接触している心筋が高温になり火傷するのです。

下図はその様子を動画で示したものです。通電開始とともに、カテーテル先端周囲の心筋が徐々に白くなっていくのが分かると思います。熱により、心筋がタンパク変性していくようです。焼灼時の心筋の温度は80℃以上になります。

焼灼の範囲が大きいように思われるかもしれませんが、実際のアブレーション時は、カテーテル先端がこの動画のように、心筋内にのめり込んでいるわけではなく、心筋表面に接しているだけで、また心筋は絶えず動いており、カテーテル先端は少しずつずれるので、最大で直径が5~8mm、深さが5~8mmの焼灼痕を作る程度です。


2013年12月18日水曜日

過ぎたるは及ばざるが如し 激しい運動は心房細動発症のリスクになります

心房細動の原因は大雑把にいうと、3つあり、加齢、心疾患、飲酒です。心疾患の中には、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、心不全などがあります。飲酒が心房細動を引き起こすことは前にも書きました。では生活習慣の一つとして、運動は心房細動の原因になるのか。よく聞かれる質問です。

適度な運動は、心房細動発症の原因になるようなことはありません。しかしながら、激しい運動は心房細動の原因になりえます。1万6千人の健康成人を調べ、各人の運動量を1週間に0回、1回、1~2回、3~4回、5~7回に分けて、その後の心房細動発症との関係を調べた研究があります。それによると、50歳以下の人に限定すれば、週に5~7回運動する人は、週に0回の人に比べ、1.7倍の多さで心房細動を発症したのです(1)。

またアスリートと非アスリートの心房細動発症率を比較した6試験のメタ解析によると、アスリートは非アスリートに比べて、5.29倍(オッズ比)心房細動になりやすいと報告されました(2)。

健康になろうとして、過度な運動をなされる方がいらっしゃいますが、「過ぎたるは及ばざるが如し」、ほどほどがよろしいかと思われます。
6つの試験すべてで、アスリートが非アスリートに比べ、心房細動を発症する危険性が高いことが分かります。参考文献 2より。


参考文献 (1) Aizer A, et al. Am J Cardiol 2009;103:1572
参考文献 (2) Abdulla J, et al. Europace 2009;11:1156

2013年12月17日火曜日

心房細動の誘発方法

心房細動カテーテルアブレーションとは、心房細動の起源を探して、そこにカテーテルの先端を接触させ、高周波の電気を流し、局所的な火傷を作って、心房細動を起こさせないようにする方法です。そのためには、アブレーション中に心房細動が起きなければなりません。日頃から頻繁に出ているわけではない心房細動をどのようにして起こさせるのか?

イソプロテレノールというお薬を使うのです。ただし通常量ではダメで、高用量必要です。この薬を使用すると、心房の活動性が増し、約9割の患者さんで、術中に心房細動が誘発されます。

当院では、以前までは1例1例、しっかりと術前にイソプロテレノール負荷を実施し、心房細動の起源をしっかりと突き止めてからアブレーションを実施していました(1)。その時に突き止めた、70例の患者さんの心房細動起源が下図です。

ご覧になればお分かりのように、以前書きましたが、フランスのハイサゲール先生の言ったとおり、心房細動起源の85~90%は肺静脈由来であることが判明しました。また、この研究で、7~8%の患者さんでは上大静脈から心房細動が発症していていることも判明しました。そこで最近は、心房細動起源の巣窟である肺静脈と上大静脈を取り囲むように焼灼することで、電気的に隔離し、その後、イソプロテレノール負荷を実施して、それ以外つまり非肺静脈、非上大静脈由来の心房細動起源を探して、各個撃破で焼灼治療しているのです。
イソプロテレノール負荷で判明した、心房細動起源です。多くの心房細動起源が肺静脈(LSPV、LIPV、RSPV、RIPV)や上大静脈(SVC)に由来していることが分かります。
参考文献 (1) 桑原大志 高用量イソプロテレノール投与法 心房細動カテーテルアブレーション メディカルビュー社 


2013年12月16日月曜日

心房細動起源

私が学生、もしくは医者になりたての頃は、心房細動は不治の病と教わりました。薬では完全に治らないので、だまし、だまし治療するしかない。上司からは「心房細動はその内慢性化するので、そうすると自覚症状も自然に和らいでくるので心配ない」と言われ、それで本当に良いのか?と騙されたような複雑な気持ちでした。

その心房細動が根治可能なことを発見したのは、フランスのハイサゲール先生という人です。彼は1998年に偉大な研究を行いました。心房細動が起こる瞬間の、心臓の中の電気興奮を観察し、心房細動の起源を突き止めたのです。発作性心房細動の9割は、肺静脈から発症すると発表したのです。

彼は同時に個別肺静脈隔離術という方法も発表しました。それを当院の高橋が、左右それぞれ2本づつある肺静脈を、個別ではなく同時に一括隔離するように修正変更し、それが今や世界の標準的方法になっているのです。

下の図は、当院で記録された、右上肺静脈起源の心房細動です。心房細動起源は興奮間隔が0.076秒という非常に短い間隔で、高頻度に興奮し、その後心房細動を発症しています。心房細動アブレーションの際には、基本的にはこのような、高頻度興奮する場所を探して、焼灼治療しています。

赤矢印が心房細動起源の興奮です。興奮間隔は0.076秒と非常に短い間隔で高頻度興奮しています。その後心房細動が発症しています。参考文献 (1)より。

参考文献 (1) 桑原大志 心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応と実際 Medicina 2013:50

慢性心房細動 持続期間が何年までなら治療可能か?

慢性心房細動とは心房細動の持続期間が1年以上のものです。患者さんから、よく受ける質問の中に「持続期間が何年までなら治るのか?」というのがあります。

当院では、心房細動の持続期間の長短に関わらず、患者さんと話し合い、アブレーションを実施した方が得だと判断した場合には、手術を行っていました。

最近、当院で実施した慢性心房細動アブレーションの心房細動の持続期間と成功率の関係をまとめました(図)。持続期間が10年未満なら、手術成功率は8割前後ですが、10年以上になると5割を切ってしまいます。成功率が5割を切るような治療手技はあまり、世間に受け入れられませんので、一応の目安として持続期間が10年未満の心房細動ならば、アブレーション治療により治る可能性ありということになります。

しかし、これも一応の目安です。持続が10年未満の人でも、左心房が著明に拡大している人は、成功率が低いと思われ、10年以上の人でも、左心房が小さく、心電図上の心房電位高が十分ある人は成功率が高くなります。お悩み中の方は、当院外来で実際に診察をお受けになることをお勧めします。
心房細動の持続期間が10年未満の人ならば成功率が8割前後となっています。

2013年12月15日日曜日

緒方洪庵

「花神」 司馬遼太郎原作の小説で、私が小学校6年の頃、大河ドラマとして放映されました。長州藩、村田蔵六(後の大村益次郎)の話で、医者として軍師として活躍する姿が描かれていました。

その大村益次郎やまた福沢諭吉の師は適塾の緒方洪庵先生です。彼は「医師というものは、とびきりの親切者以外は、なるべきしごとではない」「病人を見れば相手がたれであろと、可哀そうでたまらなくなるという性分の者以外は医師になるな」と説いています。

ドイツのフーフェランドの格言を緒方洪庵先生が訳した「扶氏医戒乃略」はいわば「医師の心得」が書かれており、私の拠り所しているところがいくつかあります。その一つに「医師は、毎日、夜は昼間に診た病態について考察し、詳細に記録することを日課とすべきである。これらをまとめて一つの本を作れば、自分のみならず、病人にとっても大変有益となる」というのがあります。
 
現代でも同じ。実際の治療中に目の前で起きていることは、教科書などには書かれていないことばかりです。その際に気づいた所見を記録し、それをまとめる、現代では論文にすることは、自分にも他の医師にも、ひいては患者さんにも有益なことだと思われます。不整脈のメカニズムにはまだまだ不明な点も多く、それをどのように明らかにして、治療していくかということを朝から晩まで考えぬいて、始めて良い治療ができるのだと思います。
司馬遼太郎先生の「花神」文庫本の表紙です。司馬遼太郎先生の本はほとんど読みましたが、特に「花神」は私のお気に入りです。私の故郷の愛媛県も出てきます。

高周波中隔穿刺針が正式認可されました。

以前このブログにも書いた高周波中隔穿刺針が厚生労働省に正式認可されました。

アブレーション時の安全性を高めるために不整脈学会から日本の医療業者に依頼し、カナダ製の高周波中隔穿刺針を輸入、代理販売、また正式認可されるように厚生労働省に申請をしたらしいようです。元の依頼が学会だったので、許認可がおりるのがスムーズだったのかもしれません。

この新しいデバイスを使用すると、心タンポナーデの合併も減るという論文(1)も報告され、使用頻度は一層増えていくと思います。

当院でも、私がアブレーションを実施する際は、高周波穿刺針を使用しています。中隔穿刺に要する時間が短縮し、安全性も増していると思います。
左上:心房中隔が伸展性に富むために、通常の金属針では孔を開けにくいケース。左下:心房中隔が肥厚しているために、通常の金属針では孔を開けにくいケース。このような症例で高周波中隔穿刺針は、安全に孔を開けることができます(右上、右下)。桑原大志 安全なアブレーションを行うためにできること Heart View 2013.17;87 より
参考文献 (1) Winkle RA. Heart Rhythm 2011;8:1411